低侵襲微細手術支援・教育訓練システム「心拍補償ロボット」
藤江研の、そして今回のオープンキャンパスで公開されたロボットの最後を飾るのは、低侵襲微細手術支援・教育訓練システム「心拍補償ロボット」だ(画像41・42)。展示パネルには医療教育シミュレーションシステム「KIDO & SUTURING SYSTEM」とあったが、発表資料などでは心拍補償ロボットとされていたのと、立てかけられていた英文の解説パネルのタイトルが直訳で「心臓外科に対する心臓の鼓動補償を備えた外科ロボット・システムの開発」だったので、心拍補償ロボットで統一させていただく。
心拍補償ロボットは、2009年に藤江教授と、岐阜大学大学院 医学系研究科 高度先進外科学分野の竹村博文教授との共同研究により、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター(知的クラスター創成事業)の支援を受けて開発された、低侵襲かつ身体への安全性が考慮された、心臓拍動下での冠動脈バイパス手術を可能とする手術支援ロボットだ。
同ロボットは、心拍センシングシステム、小型保持ロボット、2本の微細手術マニピュレータ、操作用マスタマニピュレータの4要素で構成される。心拍センシングシステムが計測する心臓の拍動に同期してマニピュレータを制御することで相対的に心臓の「静止状態」を作り出し、拍動の影響を受けないようにするというものである。これにより、患者への負担の少ない冠動脈バイパス手術を行えるというわけだ。動物を対象にした同ロボットを用いた手術が竹村教授によって行われている。
また藤江教授は日立製作所時代の1997年から、NEDOの支援を受け、東京大学工学部、東京女子医科大学脳神経外科、信州大学医学部との共同で脳腫瘍摘出手術を対象にした、マスタ・スレーブ型の低侵襲脳外科手術支援ロボット「HUMAN(NeuRobot)」の開発に関わった実績も持つ(画像43・44)。2002年8月(この時点で、藤江教授は早大に教育者として戻っている)に信州大において、手術に実際に使用されて成功し、その後も4例の手術に成功したが、日立の経営的な判断で製品化は見送られた。
フルマラソン以上の距離を無故障で歩行した「WHL」など
それから、藤江教授の開発したロボットとして有名なのは、日立時代に母校と共同研究して開発した二足歩行ロボット「WHL(Waseda Hitachi Leg)-11」(画像45)。つくば万博でWABOT-2と共に出展され、フルマラソンの距離を無故障で歩行した(実際にはそれ以上の60kmを歩行している)。こちらは、現在、早大が開発したヒューマノイドロボット第1号の「WABOT-1」(画像46)、WABOT-2とともに早大西早稲田キャンパスの63号館で静態展示中だ。
以上、早大のオープンキャンパスで見てきた、同大学で誕生したロボットたち16体+α、いかがだっただろうか。ロボット好きにとっては伝説的な存在であるかの有名な同大学の故・加藤一郎博士が、世界で初めて学術的にヒューマノイドロボットの研究を開始したのが1960年代の話であり(脚のみの二足歩行ロボット「WL-1」(画像47)の完成が1967年、WABOT-1の完成は1973年)、それから半世紀近い年月を経て、今でも研究開発は連綿と続けられている。その間、どれだけのロボットたちが生み出されたのかを考えると、驚異的だ。
どれだけのロボットが作られたのかは、いつになるかはわからないが、ぜひともお届けしたいと思っているので、楽しみにしていていただきたい。