煩雑な株券授受を合理化するため、昭和59年に発足
ここで、もう1度、株券を預託する「証券保管振替制度」を運営している「証券保管振替機構(ほふり)」の機能についておさらいしておきましょう。
証券保管振替制度は、証券流通市場の円滑な運営を図るため、株券などの有価証券の保管・受渡しを効率的にかつ合理的に進めるために設置されたわが国唯一の組織です。
この制度では、株券そのものの授受をベースに証券取引をするのではなく、有価証券を保管振替機関に集中保管。売買が起きたときには、有価証券の受渡しを株券で行うのではなく、保管振替機関を通して証券会社に設けられた口座間の振替によって処理しようというものです。
かつては株券を授受することで売買が行われていた時代がありました。売買に応じて、株券という書類を毎日大量に受け渡し、裏面の名義を書き換え、それを発行会社に報告し、売却者から購入者に届けるという作業を繰り返していました。これだと、途中で株券を紛失したり、書き換えにミスが生じたり、といったトラブルが多発し、煩雑な事務作業とセキュリティ的にも担保できないリスクから、改善が求められていました。 そのため、日本では昭和59年5月に、「株券等の保管及び振替に関する法律」が制定され、同年12月、この制度の中核となる財団法人証券保管振替機構が設立されたのです。
実際に株券を動かさず、口座振替で実質株主を把握
ほふりの仕組みは、株券を実際には動かさずに、口座間の振り替えで株券の株主移動を行っています。もう少し詳しくいうと、投資家が市場を通じて株式を購入。株主の権利を得ると、本当はその証拠として株券が渡されるのですが、紙面上、投資家は証券会社に株券を預託。証券会社はその株券を「ほふり」に預託します。ほふりのほうでは、投資家を「実質株主」として発行会社に通知。発行会社は配当金や株主総会の通知などを、その実質株主名簿をみて実施します(図参照)。
簡易的で、盗難などの心配もなく、株主の権利を行使できるので、急速に投資家にほふりが利用されるようになり、平成20年8月末現在、機構の内国上場株券の取扱銘柄数は3,097銘柄で、すべての公開会社の発行する株券等が取扱いの対象となっています。
証券会社、ほふりの破たんでも株券は守られる
一般投資家は直接ほふりを利用することはできません。必ず「参加者」と呼ばれる証券会社などを通じて、ほふりに預託することになります。ほふりは、証券会社(参加者)が預託した株券について、証券会社の自己保有分と一般投資家が預託した分について、分別して口座簿に記載します。ですから、万一、証券会社が倒産などをして、その資産が差押えの対象となっても、投資家が預託した株券が差押えられることはありません。
また、機構に預託されている株券について、万一、不測の事態が生じたときは、機構と投資家に預託されている証券会社とが連帯して補てん義務を負うことが、保管振替法によって定められています。ほふりでは、こうした事態に備えて保険契約も締結しています。
電子化後のほふりは、振替機関として、株式の振り替えを一手に行います。すべて株主名簿がほふりを通して管理されるので、発行会社も投資家も安心して、株式投資ができるといえるでしょう。 ⇒株券を失くした、端株の人などはどうすればいい?