「コンペティティブ」部門の「コンペティション」作品には、88の国と地域から1,538本の応募があった。最終的に15本の作品が選出されたが、その中で注目すべき作品2本をピックアップしよう、『さようなら、ニック』と『グレイン』だ。
『さようなら、ニック』は、ムーブオーバーでかかるほどの動員を記録した『ハンナ・アーレント』の記憶も新しい、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の作品だ。個性的なヒロインを描かせたら当代随一のフォン・トロッタらしく、本作でも好対照な二人の女性を主人公に据え、現代を生きる上で男性の影響力からどのように距離を置くべきかを考察していく。ニューヨークのファッション業界を舞台に女たちの織りなす闘いを色鮮やかに描き出すグランプリ候補の筆頭に挙がるであろう一本。
『グレイン』は、現在のトルコを代表する映画監督、セミフ・カプランオールによる近未来SF。人類を救う特殊な麦の粒を探し求める旅が物語の土台となるのだが、難民問題やエコロジー、宗教、科学の進歩など様々な問題を取り扱った重層的な構造となっている。全編モノクロの映像は、アレクセイ・ゲルマンの『神々のたそがれ』や、アンドレイ・タルコフスキーの作品を思い起こさせる。主演は『グラン・ブルー』などでお馴染みのジャン=マルク・バール。
ちなみにコンペティション部門の国際審査委員は以下の5名。審査委員長は俳優/映画監督のトミー・リー・ジョーンズだ。一癖も二癖もあるこの面々が選出する作品や如何に。