続いては「ワールド・フォーカス」作品を紹介。特筆すべきはなんと言っても今年のカンヌ国際映画祭のオープニング作品としても上映された『イスマエルの亡霊たち』だろう。アルノー・デプレシャン監督による本作は、三角関係に陥った映画監督の日常と、彼の創造する映画とが複雑に絡み合う愛のドラマだ。先のカンヌでのお披露目とは異なり、TIFFではディレクターズカット版での上映となる。
実は本作、映画業界のある面を茶化した描写が含まれており、カンヌでは、上映に際し関係者が難色を示すという事態が生じていた。結果、映画祭側は問題となったシーンを勝手にカットして上映するという暴挙に出たのだが、今回のTIFFには、その凶行の首謀者にしてカンヌ国際映画祭の総代表を務めるティエリー・フレモーの初監督作品『リュミエール!』が特別招待枠に入っているのだ。フレモーと言えば『カイエ・デュ・シネマ』誌に「映画が何なのか理解できない馬鹿」と罵倒された人物でもあるが、「映画の父」と称されるリュミエール兄弟を素材に初めてメガホンをとったという作品の出来栄えがどんなものか非常に気になるところではある。
話が逸れたが『イスマエルの亡霊たち』には、マチュー・アマルリック、マリオン・コティヤール、シャルロット・ゲンズブール、ルイ・ガレルというフランス映画界を牽引する役者がキャスティングされている。フランス映画の現在を知るという意味でも押さえておきたい作品だ。
『イスマエルの亡霊たち』Photographer:JEAN-CLAUDE LOTHER (C)2017 Why Not Productions - France 2 Cinéma |
『リュミエール!』(C)2017 - Sorties d'usine productions - Institut Lumière, Lyon |
「ワールド・フォーカス」2本目はグザヴィエ・ボーヴォワの監督作『ガーディアンズ』。背景となっているのは第1次大戦下のフランス。出兵した男たちの不在を、農場の女たちが埋めていく様子を描いた作品だ。気丈に振る舞う女主人のオルタンスをナタリー・バイが、職を求めて現れた若い女をローラ・スメットがそれぞれ演じる。撮影はジャン=リュック・ゴダールやレオス・カラックス、マルガレーテ・フォン・トロッタらの作品で知られるキャロリーヌ・シャンプティエが担当。印象派の画家、ジャン=フランソワ・ミレーを彷彿とさせる絵作りを堪能したい。
3本目もフランス映画。クレール・ドゥニ監督の『レット・ザ・サンシャイン・イン』だ。主人公のイザベル役にはジュリエット・ビノシュが、共演にはグザヴィエ・ボーヴォワ、ジェラール・ドパルデューらが名を連ねている。ドゥニの作品は、説明的な台詞を極力排除し、映像の描写で魅せるというイメージがあるのだが、本作はなんと会話主体のラブコメに仕上げてきた。この新境地が高く評価されたのか、カンヌ映画祭では、監督週間部門のSACD賞を受賞している。リアルな大人の恋愛ドラマに仕上がったのは、オートフィクションを身上とする小説家/戯曲家、クリスティーヌ・アンゴとの共同執筆によるところが大きいのかもしれない。
『レット・ザ・サンシャイン・イン』(C) Curiosa Films - FD Production - Ad Vitam - Versus production |
4本目は、66年の作品『続・夕陽のガンマン』の撮影地となったスペインのサッドヒルに残された映画用に作られた墓地と関係者、ファンを取材したドキュメンタリー『サッドヒルを掘り返せ』を紹介しよう。撮影現場を復元しようと奮闘するファンの想いに、当時制作に関わったスタッフの証言が交わり、映画に於ける奇跡の瞬間が描かれていく。単に作品の舞台裏を探るというだけでなく、映画を通じて人は過去と現在をいかに結ぶことができるかを描いた作品で、映画が追う「夢」とは何かを問いかける内容になっている。エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッドらの発言も楽しみにして頂きたい。