ファーストシーズンでは4話と9話の演出を担当
――さて、ここからはいよいよ『Fate/Zero』について伺いたいと思います。栖原さんが 1stシーズン(1~13話)で、「ここ頑張りました!」というシーンなどを教えてください。
栖原:ドラマ全体の流れを振り付けるのが演出なので、なかなか「ココ!」というのは難しいですね。あえて言うなら……、9話の冒頭のシーンでしょうか。
ケイネスが夢の中でランサーの過去の記憶を見るというシーンなのですが、時間と空間がシャッフルされるトリッキーなシーンなんです。主君の妻となるはずだった女性との駆け落ち、そして裏切り。最初にそのシーンから絵コンテを描き始めたんですが、説話自体がとても面白い反面、全体尺から考えると2分くらいでやらなきゃいけないシーンだったので、どうしたら面白さを損なわずに描けるかを1週間くらい悩み続けましたね。
でも「あそこさえ描ければなんとかなる気がする!」と思っていたので、なんとか思い通り描けたあとは、その後のシーンはそこまで悩まずに描けました。
あのシーンがダメダメだったら、そのあと4話の演出の話ももらえなかったと思います。まぁ……自分では会心の出来だったあのシーンも、結果的に監督のディレクションが入っちゃったんですが(笑)。でも、そのディレクションはすごく納得出来て「あぁ、そうなのか!」と、非常に勉強になりました。
――4話についてもご苦労された事などありましたら教えてください。
栖原:4話は全編アクションですが、二人の騎士がお互い剣と槍とで語り合う様に戦っているので、画的に地味にならない様に気を付けました。そしてそれと共に、バトルをしっかりと破綻なく描かないといけない、という事にも注力しました。
全体を通して見た時に矛盾がないように「ここで踏み込んで打って避けるとこうなるから、ここで体勢を変えてもう一回踏み込まないといけない」……といった流れをチェックして、例えば「この立ち回りだとセイバーが勝ってしまう」とか「この距離感だとランサーが余裕で踏み込んでしまう」「ここで喋(しゃべ)るなら前後はこういうバトルじゃないとおかしくなるぞ」といった事を延々試行錯誤していました。
アクションは具体的に何かを参考にした訳ではなく、夜中にひとりでエアーチャンバラをしながら、シミュレーションをした結果です(笑)。
それと、この攻撃が当たったらとんでもない、といった「怖さ」を出す事も気を付けて丁寧に描いたつもりです。子供のころからテレビの時代劇を見て育ったこともあり、常々、殺障には興味を持っていました。今回、それを活かすことができたかなと思います。
――4話と9話以外でやられた事などはあるのでしょうか?
栖原:演出以外の仕事なんですが、オープニングの原画として「カムランの丘」を描きました。アニメーションとしてはほとんど動いてないですが、兵隊が転がっている背景原図を二日徹夜ぐらいでひぃひぃ言いながら描きました。背景原図として人物を描くというという機会はなかなかないので、僕としては楽しかったです。
美術もあり得ないクオリティーで出来ていますので、Blu-rayBox Iでは、あそこは一時停止して見ていただきたいです。本当に大変だったので、あそこを気に入っていただけたら美術さん的にも報われるかなぁと。ほんの数秒のシーンですが、美術さんの作業的には相当大変なので。
『Fate/Zero』2ndシーズン、いよいよフィナーレへ!
――では、いよいよ2ndシーズン放送もフィナーレへ向け動き出しましたが、現在放送された中で「ここ頑張りました!」という所はありますか?
栖原:僕は16話「栄誉の果て」と18話「遠い記憶」の絵コンテと演出を担当しました。16・18話は14・15話のような「大スペクタクル!」ではないのですが、ストーリー上とても大事な話数なので、それぞれの見せ方はかなり気を使いました。
16話に関しては、4話と9話というランサー陣営にとって大きく物語が動く話数を担当した自分にやらせてもらえたのはうれしかったです。4話で頑張ったセイバーとランサーの剣戟(けんげき)も、16話では短い尺の中でより二人の騎士道が見える様に演出したつもりです。そして、これはランサー陣営ファンの方には申し訳ないのですが、ランサー・ケイネス・ソラウの最後を如何に救いのない様に描いて、それを通して切嗣の外道さやセイバーとの亀裂をどう描けるかというのは、今後の物語全体にとって大事な部分だったので、心を鬼にして演出しました。
18話で大切にしたのは「視聴者にシャーレイを好きになってもらうこと」「“ケリィ”が“切嗣”になる瞬間を印象深く描くこと」「そのために子供らしさあふれる“ケリィ”の姿を見せること」です。コンテ初稿の段階でそれらの弱さを指摘され、改稿にあたって非常に苦心しました。今回手がけた4本の中で、コンテにもっとも苦心しました。カット数も多く、その他さまざまなレギュラー話数と違う条件が多々あり、演出の実務にあたっても一番苦労したのが18話です。
――では、そんな栖原さんが近い未来(3年以内)に「こんな風になりたい」「こんな仕事がしてみたい」というものはありますか?
栖原:演出家のロールモデル(お手本)としてイメージに近いのは、『劇場版「空の境界」』の第五章「矛盾螺旋」、「桜の温度」、「ギョ」の監督である平尾隆之さんです。
平尾さんの、悲劇と喜劇が紙一重に描かれる演出は非常にシンパシーを感じることが多いですね。悲劇が極まったら喜劇に寄って、またその逆もあるという様なスレスレの感じが好きなんですが、しかもそれでいて「矛盾螺旋」の様にエモーショナルに訴えるドラマ運びも描けるという、「面白いってこういう事だよな」みたいな感情がウワっと広がるような、あの感覚を呼び起こすドラマ運びをちゃんと作れるのはすごいです。
あと、個人的な目標として、いつか自分の脚本で演出をしてみたいなと思っています。今はとにかく演出家として精進しないといけないのでまだまだ先の話ですが、いつかそんな風になれたらうれしいですね。
――さらなるご活躍を期待しております! 本日はありがとうございました!