遂に最終決戦が近づいてきたTVアニメ『Fate/Zero』。「『劇場版「空の境界」』のクオリティーをTVアニメで」というコンセプト通りの素晴らしいアニメが毎週制作されているが、その映像クオリティーを支える現場スタッフの活躍は、インタビュー等で目にするメインスタッフ以外は中々見えないもの。
今回の企画『ufotable ニューカマーピックアップ』はその部分にフィーチャーし、『Fate/Zero』の映像制作を支えるufotableの新進気鋭スタッフを「演出」「原画」「動画検査」「仕上げ」「撮影」「背景」「制作」の7つのカテゴリーから紹介。その先に見える映像制作の裏側と秘密に迫ります。
はじめまして、栖原隆史さん
――まずは、自己紹介をお願いいたします
栖原:『Fate/Zero』で各話の演出・絵コンテを担当しています、栖原隆史です。ufotableには2006年4月より少し前に入社しました。ちょうどufotableが『コヨーテ ラグタイムショー』という作品の放送準備に追われている頃でした。
演出:栖原隆史さん |
――アニメ業界に入ろうと思ったきっかけを教えて下さい
栖原:大学は出たものの「これからどうしよう……」と悩んでる時期に「自分が好きなものは何だろう?」と考えて「アニメしかない!」と思ったんです。でも、絵を描くのは好きでしたが、それまでアニメ業界に入ろうと考えたことが全くなかったので、どうやって入っていいかも分からず……。
そこで、アニメの専門学校の入学説明会に行って、その学校の先生に「……すみません、入学するつもりはないのですが、アニメ業界ってどうやって入るんでしょうか?」と申し訳なく思いながらも聞いたんです。今思えばとんでもなく失礼な話なのですが……。
でも、ありがたいことにその先生に気に入っていただけて、どんな会社があるかや、面接のコツなども教えていただいたんです。
――さまざまな制作会社がある中で、どうしてufotableを選ばれたのですか?
栖原:きっかけは、今ufotableで撮影監督をしている寺尾優一くんです。彼は大学時代の後輩なのですが、学生時代に彼の自主制作アニメ映画を手伝った事があったんです。僕は卒業後、1年ブランクがあったのですが、その折に彼がufotableという会社に入ったと聞いて、当時はufotableの事は全く知らなかったんですが、いろいろ調べて面白そうなところだな、と思って面接を受けました。
正直、第1志望の制作会社に落ちて、「それならいっそ未知なる会社に入っちゃえ!」という勢いもありましたね(笑)。
――入社されてからは、どんな仕事をされていたんですか?
栖原:『Fate/Zero』の演出をする前は『コヨーテ ラグタイムショー』『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』の動画、第2原画などをやっていました。ufotableの作品で原画としてちゃんと名前がクレジットされたのは『劇場版「空の境界」』の第七章です。
僕の演出デビュー作品は『Fate/Zero』で、4話「魔槍の刃」と9話「主と従者」の演出・絵コンテを担当させていただきました。社長の近藤から9話を担当するという話をもらい、そのあと4話も、ということになりました。
「演出」は「ドラマの振り付け」をする仕事
――アニメ制作における「演出」というのは、どんな事をされるお仕事なのでしょうか?
栖原:実写で例えるなら「役者さんに演技指示を出す」みたいな仕事です。もう少しアニメ的な言葉で言うと「ドラマの振り付けをする」という感じでしょうか。
具体的な流れで言いますと、まずシナリオを元にアニメの設計図である絵コンテを描きます。それを元に、アニメーターさんには「このカットはキャラクターをこんな風に描いて(動かして)下さい」、美術の方には「このカットはこんな美術背景をお願いします」と内容を説明してそれぞれ描いていただきます。そして、上がってきたものに対して”あり”か”なし”かの判断をします。
その”あり”か”なし”の判断は、単純にカット単位の良しあしもありますが、それ以上に、例えば「このキャラクターはさっきのシーンで悲しい事があったから、このカットではこんな表情をしない」とか、「このバトルシーンでこの立ち位置で攻撃するのは流れ的におかしい」といった様に、各カットが全体の流れに沿った動きや表情をしているか否かで判断しています。
アニメ制作は、1話あたり約300~350カット前後ある本編を各カット単位で制作します。つまり複数のアニメーターさんや美術さんがそれぞれカット別に描くので、全てをまとめた時に、どうしても齟齬(差異)が出てしまう時があるんです。実写の場合はあるキャラの役者さんはお一人で全編芝居をされますから、これはアニメ制作独特の作業かもしれませんね。
”なし”と判断した場合は、もう1回描いてもらったり、時には自分で描き直したりもします。演出の仕事はその作業の積み重ねですね。演出というと指示だけ出しているイメージかもしれませんが、意外とみなさん画も描いています。
物語の流れを誰よりも把握しているのは演出なので、全体を俯瞰(ふかん)で見て、細かいひとつひとつを判断しています。
――お話を伺う限りでは監督に近い様なイメージなのですが、監督と各話の演出さんのお仕事の違いはどんな点なのでしょうか?
栖原:各話の演出は、各話の監督と捉えてもらえれば分かりやすいでしょうか。先程、アニメがカット毎に制作されているとお話しましたが、それと似た様に、各話も各演出それぞれが動かしているので、そこに齟齬(差異)が生まれる場合もあります。その各話それぞれを見て、シリーズ全体の最終的な方向性や色味・見せ方などをコントロールするのが『Fate/Zero』では、あおきえい監督です。
僕等演出が各話を俯瞰(ふかん)で見て判断する様に、あおき監督は『Fate/Zero』全話数を俯瞰(ふかん)で見て、”あり”か”なし”かを判断されています。絵コンテの段階で監督からの直しも受けますし、アフレコやダビングなどの音響作業等々で更に監督のディレクションが大きく入る事もあります。その結果、やっぱりシリーズ全体で見ると、ちゃんとあおき監督の色で統一されているんですよね。僕は『Fate/Zero』が初めての演出経験だったので、それがとても不思議な感覚で、単純に「すごいなぁ」と思ってしまいました。