豊かなトルクと扱いやすいレスポンス

排気音を含め、騒々しいエンジンはライダーを気負わせる。これは次第に慣れてくるのだが、よく聞くと柔らかい、ちょっと懐かしい音であることがわかる。しかしライダー以外にとっては十分な威圧感があるので、夜間の市街地などでは低回転を心がけるべきだろう。

そのエンジンはというと、すばらしく気持ちがいい。2,000rpmあたりですでに実用的なトルクが発生するが、もう少し上、3,000rpmぐらいからのフィーリングがとてもいい。シルクのような滑らかな感じではなく、使い込んだGパンというのか、ざっくりとしたいい感じのざらつきを持っており、それでいて力強い。フォーンという共鳴を混ぜながら、トルク感いっぱいに吹け上がる。吹け上がりそのものは速くないが、そのぶん、トルクを長く楽しめる。これが楽しいばかりについついアクセルを開けてしまうことになる。

スポーツライディングとしての実戦領域はもう少し上、5,000rpm以上か。特にメーターが真上を指す6,000rpmあたりからエンジンの艶やかさが増す。共鳴音はさらに顕著になり、まるでチューニングしたエンジンのようにパワーを発揮する。レッドゾーンは10,000rpmからだが、9,000rpmあたりで伸びは鈍化するので、神経質にメーターを見る必要はない。体感的に伸びが緩くなったらシフトアップすればいい。

開け開けで走るときの加速はかなり強烈である。瞬間的に風景が飛ぶように流れていく。強力なブレーキが控えていてくれるので心理的には恐くないが、オーバースピードと回りの交通には十分気をつけたい。そうなってみると、前斜のポジションにも納得できる。フル加速でもハンドルにしがみつく必要はなく、大きくしっかりしたシートがライダーを支えてくれる。高いプリロードのリヤサスペンションも加速に音を上げない。リヤタイヤの交換時期が早くなりそうではあるが。ちなみに今回乗ったスピードトリプルは、ダンロップの「スポーツマックス・クオリファイヤー(SPORTMAX Qualifier)」を履いていた。グリップ力、フィーリングともに十分なものだった。

3気筒のパワー表現でよく使われるのは、「低回転では2気筒のトルク、高回転では4気筒のパワー」というもの。スピードトリプルについてもあながち外れてはいないと思うが、実際はもっと豊かで繊細なものだ。2気筒よりもはるかに振動は少ないし、4気筒よりもトラクションは強い。置いていかれるような加速ではなく、いつもライダーといっしょにあるパワーなのだ。

現在、大排気量の3気筒というとトライアンフぐらいなので(ベネリもあるが……)、このエンジン特性がトライアンフ特有のものなのか、3気筒一般についてのものなのか判断しづらい。しかし、ある意味、バイクにとって理想的なエンジンではないかと思う。

もちろん難点がないわけではない。アクセルオフでゴボゴボという吸気音が盛大に聞こえる。ストリートファイターとして気分を盛り上げるにはいいのかもしれないが、オトナが乗るには少々下品だ。また、デッドからのアクセルレスポンスが過敏で、少々ドンツキの傾向がある。このあたり、もっと調教してほしいと思う。

水冷3気筒エンジン。オイルクーラーも装備する。ボルトの数がイギリスっぽい

フレームはパイプを組み合わせたような独特のデザイン

ステップ。後退しているが使いやすさは十分。ヒールガードも装備

スッパリ切り落とされたようなテールエンド。ナンバーやウインカーはステーで支える

フロントのディスクブレーキ。キャリパーはラジアルマウント

リヤスイングアームは片持ち式。奥にブレーキディスクが見える

リヤのランプはLEDを採用。シートの下にちょこんと収まる

ラジエーター横に付くウインカー。なんだか引っかけそうで気になる