◆消費電力測定(グラフ90~96)
最後に消費電力ひっかうである。いつも通りSandra 2021のDhrystone/Whetstone(グラフ90)、CineBench R23(グラフ91)、TMPGEnc Video Mastering Worksで4Streamトランスコード時の最初の240秒(グラフ92)、3DMark FireStrike Demo(グラフ93)、Metro Exodus(2K)(グラフ94)の消費電力変動と、それぞれの平均値(グラフ95)、及び待機状態との差(グラフ96)をまとめてみた。
もうグラフ90~94でも消費電力の低さは明白である。比較的CPU性能の差が少ない筈の3DMark FireStrike Demoですら20Wほどの消費電力の差があるし、CPU負荷が高まるとその差は大きく広がる。グラフ95はチップセットの違いも加味してのものだから、例えばCineBenchのSingle Threadだと一番消費電力が低いのはCore i7-13700KFというおかしなことになるが、この辺りの差を抜いたグラフ96ではきちんとCPUの消費電力の低さが示される。これに関しては悪いのはAMD X670チップセットで、B650(とかつい先日発表されたB620)を使ったシステムなら、多分待機時消費電力(グラフ95のIdle)がCore i7-13700KF並みかそれ以下に落ちる事が期待できそうだ。
さてグラフ96を元にもう少し分析すると、やはりCore i7-13700KFが突出して消費電力が大きい事が判る。Ryzen 7 7700Xと比べても100W、Ryzen 7 7800X3Dと比べると150W以上消費電力が多い。この消費電力の差に見合うほど性能の差があるか? というのが次の問題である。まずDhrystone/Whetstoneでの性能と消費電力、効率をまとめたのが表3と表4であるが、意外にもRyzen 7 7700Xよりは効率が良い。とは言え、Ryzen 7 7800X3Dには及ばない。同様にTMPGEnc Video Mastering Works 7における性能と消費電力・効率をまとめのが表5である。ここで効率とは、1W費やすとエンコード速度がどれだけ上がるかという話で、Ryzen 7 7800X3Dなら0.21fps/W、つまり5Wで1fpsのエンコード速度が実現できるのに、Core i9-13700KFだと0.09fps/Wで、11Wを費やしてやっと1fpsのエンコードが可能になる計算だ。効率そのものは決して良くない。
■表3 | |||
Dhrystone | Power | Efficiency | |
---|---|---|---|
GIPS | W | GIPS/W | |
Core i7-13700KF | 693.38 | 290.2 | 2.39 |
Ryzen 7 7700X | 428.18 | 218.4 | 1.96 |
Ryzen 7 7800X3D | 403.42 | 155.5 | 2.59 |
■表4 | |||
Whetstone | Power | Efficiency | |
---|---|---|---|
GFLOPS | W | GFLOPS/W | |
Core i7-13700KF | 523.68 | 307.4 | 1.70 |
Ryzen 7 7700X | 344.90 | 223.5 | 1.54 |
Ryzen 7 7800X3D | 314.10 | 165.1 | 1.90 |
■表5 | |||
TMPGEnc | Power | Efficiency | |
---|---|---|---|
fps | W | fps/W | |
Core i7-13700KF | 24.2 | 273.1 | 0.09 |
Ryzen 7 7700X | 19.0 | 160.0 | 0.12 |
Ryzen 7 7800X3D | 17.6 | 84.9 | 0.21 |
これはGamingでも同じである。表6はMetro Exodus:PC Enhanced Edition 2Kの平均フレームレートと消費電力、効率をまとめた物で、Efficiencyは1W費やすとどれだけフレームレートが上がるか、を計算したものだが、ここでCore i7-13700KFは0.33fps/Wと効率はかなり悪い。そもそもこのテストの場合、消費電力の大半はGPUであって、CPUの占める割合はそれほど高くないにも関わらず、ここまで効率の差が出るのは象徴的である。絶対的な数値で言っても、Core i7-13700KFをRyzen 7 7800X3Dに変えるだけで100W近く消費電力が減り、それでいて僅かながらフレームレートは上がる、という現状をどう考えるべきかは自明だろう。
■表6 | |||
Metro Exodus 2K | Power | Efficiency | |
---|---|---|---|
fps | W | fps/W | |
Core i7-13700KF | 149.1 | 451.4 | 0.33 |
Ryzen 7 7700X | 150.9 | 400.4 | 0.38 |
Ryzen 7 7800X3D | 151.7 | 368.8 | 0.41 |
考察 - バツグンのゲーミングCPUだが、実勢価格は弱点になるか?
今回の結果、筆者からすれば「予想通り」である。こうなる事は、Ryzen 9 7950X3Dのテストを行っていた時から予測はできたし、その通りの結果が出た。確かにCPUの絶対性能という観点で言えば、Ryzen 7 7800X3Dのピーク性能はそれほど高くない。それは主に、動作温度が閾値を超えない様に、厳密に動作周波数を抑え込んでいる事に起因している。ただそれを埋めて余るほど、3D V-Cacheによる性能向上と、性能効率の向上が得られる事がRyzen 7 7800X3Dの最大の価値である。
何度か書いたように、今回Display Driver Versionが異なるので厳密な比較は無意味ではあるのだが、Ryzen 7 7800X3DのGaming Performanceは、Ryzen 9 7950X3Dに比肩するほど高い。まぁそもそもRyzen 9 7950X3Dが非対称構成でGamingを実施している事を考えると、実質的にGameの稼働時はRyzen 7 7800X3Dとほぼ同じ状況であるわけで、この結果はある意味当然である。
こうなってくると、今回の3製品の位置づけは明白である。エンコーダなどの処理が高速に動き、かつゲームもそこそこに動いてほしいという向きにはCore i7-13700KFが向いている。問題は値段がそこそこ(並行輸入品はあまりないため、概ね6万円弱より安い製品は入手が難しい)な事と消費電力が多い事で、特に消費電力はRyzen 7 7700Xと比較しても軽く100Wは増える事を覚悟してほしい。消費電力が多いということは発熱も多いということで、これから暑くなる時期であることを考えると、冷房コストもその分増える事を忘れてはいけない。
Ryzen 7 7700Xは丁度バランスが良い。性能的にはそこそこであるが、消費電力はCore i7-13700KFより100W低く、性能/消費電力比はかなり良好である。あと冒頭でも触れたが、国内正規品だと6万円オーバーだが、並行輸入品(筆者の私物のRyzen 7 7700Xもこれである)だと5万を切っており、価格性能比も悪くない。B650マザーボードあたりと組み合わせるのがベストバランスだろう(最近だと3万円を切る製品も増えて来た)。
Ryzen 7 7800X3Dは、特にゲームユーザーには一押ししたい。間違いなく最高のGaming CPUと言えるだろう。エンコードなどには向いてないと言えば向いていないが、性能/消費電力比の高さもピカ一である。ネックになりそうなのは、価格だろうか? これも冒頭で書いたように、Ryzen 7 7900X3D/7950X3Dと同じ換算レートだと、7万円を超えるちょっと高額のRyzen 7という事になってしまう。このあたりは日本での販売価格が決まるのを待ちたいところだが、Ryzen 7 7700Xと異なり並行輸入で安い製品が入手できる可能性はあまり高くない(それほど潤沢に製品が出るとは思えないので、並行輸入品がどの程度出回るかも怪しい)事を考えると、そう価格は簡単には下がらないだろう。そのあたりを覚悟できるユーザーにお勧めしたい。
追記:冒頭でも書いたように、国内販売価格が\71,800(税込み)であり、Ryzen 7 7700Xの並行輸入品との価格差は結構大きい。ヘビーゲーマーの方には、この価格差であってもお勧めしたい製品であるが、その他の方に関してはコストパフォーマンス的にちょっと悩ましいあたりだ。