以前Ryzen 9 7950X3Dを評価した際の最後に「4月のRyzen 7 7800X3Dの方が気になるところだ」と書いたが、早くもこれを試す機会がやってきた。ということで早速試した結果をお届けしたいと思う。
評価機材
まずはパッケージ(Photo01)だが、Ryzen 7 7700Xのものと比較すると一回りデカくなった(Photo02~04)。フロントは手前に開き、その中にブリスターパックが収まっているという、Ryzen 9のものと同じになっている(Photo05)。CPUパッケージそのものはシルク印刷以外、特に差は見られない。CPU-Zでの結果(Photo08)も特におかしな部分はみつからない。Windowsからも問題なく認識された(Photo09)。
評価環境は表1に示す通りだ。Ryzen 9 7950X3Dの時には2つのCCDが非対称構成という事もあり、インストール時に複雑な設定手順が必要という話をご紹介したが、Ryzen 9 7800X3Dの方はCCDが1個なので非対称構成に向けた対応などは一切不要であり、普通にOSをインストールしてそのまま利用可能である。またRyzen 9 7950X3Dの評価時にはM/B BIOSが"SBIOS based on AMD Combo AM5 PI 1.0.0.5aRC2 + SMU 84.79.215"対応でないと動作せず、当時手持ちのASUS TUF Gaming X670E-PLUSでは利用不可能だったためにMSI MEG X670E ACEを借用して評価を行ったが、TUF Gaming X670E-PLUSの方はその後2月24日リリースのVersion 1222でAGESA version to ComboAM5PI 1.0.0.5 patch Cへの対応を行っており、問題なく利用可能となっている(今回比較には、3月24日リリースのAGESA version to ComboAM5PI 1.0.0.6対応を果たしたVersion 1410βを利用している)。
■表1 | ||
CPU | Core i7-13700KF | Ryzen 9 7700X Ryzen 7 7800X3D |
---|---|---|
M/B | ASUS Prime Z690-A | ASUS TUF Gaming X670E-PLUS |
BIOS | Version 2305 | Version 1410 Beta |
Memory | Corsair emgeance CMK32GX5M2D6000Z36 DDR5-5600 CL48 |
|
Video | ASUS TUF Gaming Radeon RX 7900 XT OC Edition 20GB Radeon Software Adrenalin Edition 23.3.2 |
|
Storage | Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot) WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data) |
|
OS | Windows 11 Pro 日本語版 22H2 Build 22621.1413 |
後の環境はRyzen 9 7950X3Dのレビューの時とほぼ同じ(Windows Updateの結果としてWindows Versionが若干上がっているのと、Display Driverが更新されている)環境となっている。WindowsのVersionはともかくDisplay DriverのVersionはちょっとゲーム性能に影響がありそうなので、ゲームでのフレームレート比較をRyzen 9 7950X3Dの際とそのまま比較するのは厳密には正しくないのだが、傾向を見る分には良いと思う。
ちなみに今回比較対象はAMDとIntelの7グレードということで、Ryzen 7 7700Xに加え、Core i7-13700KFを追加した。なんで13700KFか? というと、13700Kが在庫払底で入手できなかったためである。この原稿執筆時点での価格は
・Core i7-13700K(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BCF57FL5/) \59,118(在庫切れ)
・Core i7-13700KF(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BCDL7F5W/) \59,080
・Ryzen 7 7700X(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BF51NZHN/) \63,567
・Ryzen 7 7700X(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BGX738W4/) \47,455(並行輸入品)
といったところ(いずれも税込価格)。Core i7-13700K/KFは国内代理店と並行輸入で殆ど価格が変わらないのに対し、Ryzen 7 7700Xは結構大きな差があるのが特徴的だが、元々Ryzen 7 7700Xは$399という値付けで、これはCore i7-13700K($409~$419)とCore i7-13700KF($384~$394)の中間という絶妙な価格であったが、円安の影響もあって6万超えになってしまっていた。ちなみにRyzen 7000X3Dシリーズの場合も
・Ryzen 9 7900X3D:$599/\111,800(\159.94/$)
・Ryzen 9 7950X3D:$699/\95,800(\159.93/$)
と割とお高めである。この換算レートがそのままだとするとRyzen 7 7800X3D($449)は\72,000をちょっと下回る程度となり、ちょっとCore i7-13700Kと比較するのはどうか? という価格帯になってしまう訳だが、この辺は換算レート次第ということになる。まだ日本AMDより日本での発売価格が示されていないので、多少なりとも換算レートが下がってくれることを祈るのみである。
追記:と書いて原稿を編集部へ入稿した後で、日本AMDから国内販売価格が\71,800(税込み)と発表された。筆者の予想通りであったわけだが、お高めではないか、という予想だっただけに、あまり嬉しくない。
グラフ中の表記は
13700KF:Core i7-13700KF
7700X :Ryzen 7 7700X
7800X3D:Ryzen 7 7800X3D
となっている。また解像度表記も何時もの通り
2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
3K :3200×1800pixel
4K :3840×2160pixel
とする。また各ゲームベンチマークにおける設定はRyzen 9 7950X3Dの評価やCore i9-13900KSの評価と「原則」同じである(今回一つGame Benchmarkを新しく追加した)。なので追加したもの以外に関しての設定は、こちらの記事を参照して頂きたい。
◆CineBench R23(グラフ1)
CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
まずはこちらだが、Multi/Single共に今一つではある。特にMultiに関してはP-Core×8+E-Core×8で合計24Threadを利用できるCore i7-13700KFが圧倒的に有利なのは当然である。Singleの方はP-Core対Zen 4コアという格好になるが、Base 3.4GHz/Boost 5.4GHzのCore i7-13700KFに対しBase 4.5GHz/Boost 5.4GHzのRyzen 7 7700XはともかくBase 4.2GHz/Boost 5GHzのRyzen 7 7800X3Dのスコアが低いのはまぁ妥当と思える。
◆PCMark 10 v2.1.2597(グラフ2~7)
PCMark 10 v2.1.2597
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
いつものPCMark 10である。Overall(グラフ2)はもう御覧の通りで、Core i7-13700KFとRyzen 7 7700Xはほぼ拮抗したスコアになっており、Ryzen 7 7800X3Dはそこからちょっと落ちるといった具合。これは動作周波数の差と、熱管理の厳しさ(TDPこそRyzen 7 7700Xと同じ120Wだが、実際は動作温度の枠を厳密に守るため、動作周波数は低めに推移している)が主な要因であって、同じ事はRyzen 9 7950X3Dの結果でも表れていた。
ただ詳細にテスト結果(グラフ3~7)を見ても、Ryzen 7 7800X3Dで大きく性能を落としているものはあまりない。流石にRyzen 7 7700Xを上回るケースはApplicationsのEdgeのみだが、Core i7-13700KFを上回るケース(ProductivityのWriting、Digital Contents CreationのPhoto Editing、ApplicationsのWordやEdge)は散見されるあたり、本質的に大きく性能が見劣りするというほどの違いはない。比較的大差がついているのはApplicationsのExcelだが、実際にテスト結果の詳細(表2)を見てみると、大差がついているのはBuildingDesignRecalculateとかStockHistoryRecalculateといった、全Threadをフルに使って再計算を行う処理がメインで、要するにこれはコアの性能比というよりは稼働するThreadの数で負けたという感じなので、この結果は妥当だろう。
■表2 Core i7-13700KFの各テストの所要時間を100%とした相対性能 | |||
Core i7-13700KF | Ryzen 7 7700X | Ryzen 7 7800X3D | |
---|---|---|---|
Edit | 100.00% | 97.93% | 98.77% |
BuildingDesign Recalculate | 100.00% | 129.57% | 140.31% |
StockHistory Recalculate | 100.00% | 160.33% | 173.82% |
Start | 100.00% | 103.69% | 105.96% |
Load | 100.00% | 107.67% | 119.20% |
Save | 100.00% | 119.88% | 127.29% |
Close | 100.00% | 101.39% | 106.84% |
CopyFormulas | 100.00% | 105.32% | 101.39% |
CopyData | 100.00% | 93.93% | 94.24% |
CopyCompute1 | 100.00% | 107.87% | 110.38% |
CopyCompute2 | 100.00% | 97.26% | 94.10% |
Resize | 100.00% | 124.28% | 127.24% |
◆Procyon v2.3.713(グラフ8~12)
Procyon v2.3.713
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon
次はProcyonであるが、最新版ではAI Inference Benchmarkが新たに加わった(Photo10)。といってもQualcomm SNPEとIntelのOpenVINO、NVIDIAのTensorRTはそれぞれの専用ハードウェアが必要となるので、実施できるのはMicrosoftのWindows MLを利用した場合のみとなる。これはWindows MLを介してDeeplabv3/Esrgan/Inceptionv4/Mobilenetv3/Resnet50/Yolov3の各Networkを実行し、その際の速度を比較するというものである。
ということでOverall(グラフ8)を見ると、これもPCMark 10とあまり状況は変わらない。エンコードがメインのVideo EditingこそCore i7-13700KFが有利だが、他はRyzen 7 7700Xの方が優勢であり、Ryzen 7 7800X3Dは動作周波数の差もあってこれに若干劣る程度。詳細(グラフ9~12)を見てもこれは明白である。ちなみにグラフ12はそれぞれのNetworkでのInference Count(毎秒あたりの処理回数)を示したもので、数が多いほど高速ということになる。意外にここでRyzen 7 7800X3Dが健闘(Deeplabv3やEsrgan、Yolov3では最高速)なのは、Inferenceと言ってもメモリアクセスの頻度が多くなると、96MB L3を積んだRyzen 7 7800X3Dが有利ということかと思う。
◆POV-Ray V3.8.2 Beta2(グラフ13)
POV-Ray V3.8.2 Beta2
Persistence of Vision Raytracer Pty. Ltd
http://www.povray.org/
これはもうCineBenchと同じ傾向であって、Thread数の多さがそのまま性能に繋がるから、All CPUでCore i7-13700KFが最高速なのは不思議でも何でもない。ちょっと意外なのはOne CPUで結構な差がついていることだろうか? もっともPOV-Ray V3.80β2はIntel向けの最適化が進んだバージョン、という話は以前も説明した通りで、このあたりが効果的だったということかもしれない。
◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.27.30(グラフ14)
TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.27.30
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html
最近バージョンアップが行われたTMPGEnc Video Mastering Works 7だが、アップデート内容は不具合修正がメインで新機能などは無いので、性能評価としては以前までの基準と変わらない。そしてこちらもやはりコアの数がそのまま効いてくるわけで、Core i7-13700KFが当然最高速となる。Ryzen 7 7700XとRyzen 7 7800X3Dの差も大きいが、これは要するに実効動作周波数の差≒実効消費電力の差でもあって、この辺は消費電力の所で改めて確認してみたい。
◆3DMark v2.25.8056(グラフ15~18)
3DMark v2.25.8056
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark
今回のベンチマークをやっている真っ最中にv2.26.8092がリリースされた3DMarkだが、既にデータを取り終わったものもあったので今回は一つ前のv2.25.8056での実施である。
Overall(グラフ15)を見る限りは、全体的に大きな差はない。勿論WildLifeとかNightRaidでCore i7-13700KFが優勢(このNightRaidで妙にIntel系の性能が良いというかAMD系が悪いのは、もうNightRaidのせいなんじゃないかという気もしなくは無い。何故フレームレートが低いのか、は不明だが)であるが、その他に関しては言うほどの性能差は無い。この傾向はGraphics Test(グラフ16)も変わらない。というか、Radeon RX 7900 XTを利用している関係で、Graphics Testの結果がOverallにおいてかなり支配的になっているから、続くPhysics/CPU Testの結果やCombined Testの結果はもうあまり関係ないというのが正直なところであろう。そのPhysics/CPU Test(グラフ17)は、これもCore i7-13700KFが圧倒している訳だが、Combined Test(グラフ18)ではむしろRyzen 7 7800X3Dが最高速、という結果になった。この辺りの傾向はRyzen 7 7950X3Dの結果とほぼ同じであり、Game Benchmarkの結果が楽しみである。