米国時間の4月19日、AMDは第2世代のRyzenプロセッサ(Ryzen 2)を4月19日に発売する。これに先立って編集部の方で、評価キットの「開封の儀」を行っていたので、ご覧の方も多いかと思う(ちなみに撮影は筆者だが、ベンチ真っ最中だったので記事は編集部にお願いした)。いよいよ発売となる第2世代Ryzen 2評価レポートをお届けしたい。

第2世代Ryzenで変わったもの

まずはRyzen 2の概要を紹介したい。製品のアピールポイントとして、ハイエンドのRyzen 7 2700Xでは「Core i7-8700Kを上回る性能で、しかも値段が安い」(Photo01)ことが挙げられている。

  • Photo01:Ryzen 2 2700XはWraith Prismが同梱されて329ドルなのに、Core i7-8700KはCPUクーラー別で350ドルであり、お買い得感が高い、という主張

ラインナップとしては、第1世代の製品群からだいぶ整理した(Photo02)ようで、特にRyzen 5 1500XとRyzen 3 1200については後継製品が用意されていない。

  • Photo02:「えーと、Ryzen 5 1500XとRyzen 3 1300Xは在庫処分用に継続販売?」と聞いたところ、さすがに「そうじゃない(苦笑)」という返事が

これについて「第1世代は製品が多すぎて、多少整理しても問題ない(Ryzen 7 1800XとRyzen 7 1700Xも同じく)」とのことで、少なくともローエンドは、Ryzen APUでカバーできるのでRyzen 2で置き換えるニーズはほとんどないという判断だそうだ。確かに製品数が多すぎた感はあるので、この程度のラインナップで十分という気はする。

Ryzen 2では、アーキテクチャ的にはCacheのLatencyを削減しており、これによってIPCを3%程度向上したという(Photo03)。また製造がGlobalfoundriesの12LPプロセスに切り替わった。

  • Photo03:逆に言えば、Cache Latencyを削減した以外に違いがないということになる

結果として、最大動作周波数が4.35GHzあたりまで引き上げられたほか、全コア駆動時でも4.2GHzを達成したという。さらにすべての周波数で、(第1世代に比べて)Vcoreを50mV程度引き下げできた(つまり、消費電力が減った)と成果をアピールする(Photo04)。

  • Photo04:もっとも実は12LPを使いつつ、12LPではない、というオチも

回路そのものは変わらないのに性能向上したワケ

気になるのは、性能向上をどうやって実現したかである。AMDのJoe Macri氏によれば「Ryzen 2のダイサイズとトランジスタ数は、Ryzenとまったく同じ」と説明する。回路そのものには一切手を入れていないという話である。さらに言うならば、論理設計だけでなく物理設計レベルでも手が入っていない。

Globalfoundriesの12LPは、プロセスに若干の変更を加えるとともに、同社の14LPPで提供していた9/7.5 TrackのStandard Cell Libraryを6 TrackのStandard Cell Libraryに切り替えることで、ロジック密度を引き上げるというものだ。

ところがAMDは、Globalfoundriesが提供するStandard Cell Libraryを使わず、自社のライブラリを採用しており、Ryzen(14LPP)とRyzen 2(12LP)で共通のものを利用しているとする。つまり、製造プロセスそのものは12LPといいつつも、Globalfoundriesが12LPで大きな売りとした6 Track Cell Libraryは使われていない。

そうなるとロジック密度は14LPPと変わらず、ダイサイズにも変更がない。要するに論理設計はおろか、物理設計は同じままで、プロセスのみ小変更を掛けた程度(物理設計も同じ、という話だから、おそらくジオメトリも同じままだと思われる)だということだ。

SchedulerとかROBの容量拡大とか、μOp Cacheの容量増加、TLBの増強といった、IPCを向上させるために使われる手段も、今回は一切行われていないという話であった。

ただプロセスを小変更する際に、キャッシュ周りのアクセスを高速化(おそらくは回路層ではなく、その上の配線層のチューニングと思われる)したそうで、この結果としてIPCが改善されることになったという。メモリコントローラも一切いじってないという話だったので、おそらくは配線層の高速化によりLatencyが若干減ったものと考えている。

IPCが3%向上、動作周波数も上がっている(XFRを別にすると、4GHz→4.3GHz)ことを考えると、トータルでは1割ほど性能が引き上げられた計算になる。

ほかに違いとしては、Precision Boost 2の搭載(Photo05)やXFR2の搭載(Photo06)も挙げられているが、これらはSensiMIにつながる内部のMCUのFirmwareを更新する形で実装されているので、回路そのものには変わりが無いという話である。

  • Photo05:じゃあ、MCUのFirmwareを更新すれば初代RyzenでもPrecison Boost 2やXFR2が利用できるのか? と言われると、技術的にはたぶんできると思うが、量産品にはそのFirmwareをUpdateするための手段がないから現実問題として不可能である

  • Photo06:XFR2ではよりアグレッシブに動作周波数を引き上げる。実際に確認したが、まさにアグレッシブに周波数があがる感じであった

あと、新機能というかどうかは微妙だがIHS(Integrated Heat Spreader)は引き続きハンダだが、材質を改善して最大10度、ダイ温度を引き下げられるようになったとする(Photo07)。

  • Photo07:比較対象は従来のRyzenらしい。ダイそのもののMetallization(金属膜を表面に積層)を行うことで、より放熱効率を増した点もこれに貢献していると思われる

「Core i7-8700Kに並ぶ性能をお安く提供」

ついでに、同時に発表された性能評価も簡単に示しておく。Ryzen 7 2700X vs Core i7-8700Kの簡単なアプリケーション比較(Photo08)とゲーム性能比較(Photo09)、およびRyzen 5 2600X vs Core i5-8600Kのゲーム性能比較(Photo10)である。アプリケーションではCore iを上回り、ゲームではCore iより下回るが、どちらにしても大きな差にはならず、総じて同等程度。そして価格が安い、というあたりがAMDの主張となる。

  • Photo08:CineBenchとPOV-Rayはベンチマークで検証することになる

  • Photo09:微妙に追いついているとは言いがたいが、まぁいい勝負という結果に

  • Photo10:こちらも同様。でもこの程度の性能であれば、事実上問題ないとは思う。あとは本当にこのパフォーマンスが出るかである

最後にStoreMIの話にも触れておこう。StoreMIは今回新しく追加された機能だが、これはRyzen 2ではなく同時に発売されるAMD X470チップセットの機能として提供される。これは何かというと、Ryzen APUの発表時で紹介したenmotusのFuzeDriveである。

FuzeDriveは高速なStorage(SSDやNVMe SSD)と低速なStorage(HDD)を組み合わせて高速化する技法で、本来のFuzeDriveは複数台のペア(高速Storageと低速Storageを組にしたもの)を構築できるが、StoreMIは1組に限るという制限が付いている代わりに、X470だと無償で利用できる(Phtoo11)。

  • Photo11:効果の一例

ちなみにStoreMIとFuzzDriveの関係は「FuzzDriveのライセンスを受けて、1組に限るという前提で無償で提供するものなので、FuzzDriveのキーを別途購入すれば、大容量のSSDとか複数組のペアの利用なども出来るようになる」(AMDのJames Prior氏)という話であった。