Apple Pay Cashについて1つ誤解を解いておくべき点は、少なくとも現時点では、Apple自身が銀行になったり、仮想通貨のようなもの(Apple Cash)を持つわけではない、という点だ。

Apple Pay Cashは前述の通り、Green Dot Bankのプリペイドカードの発行システムを用いてDiscoverブランドのデビットカードを発行する仕組みを、「Apple Pay Cash」としてサービス化しているに過ぎず、既存の銀行や金融ネットワークの仕組みを活用してサービスを作りだしている点で、VenmoやSquare Cashと比較しても、必ずしも新しいモノを作り出している存在ではない、ということだ。

そのため、Apple Pay Cashの残高はドルベースであり、Appleが独自の通貨を創り出したり、ブロックチェーンを用いた仮想通貨を持つ、ということでもない。そのため、Apple Pay Cashに対して、フィンテック的な新しい存在としての期待をすべきではない。

しかし、サービスとしてとらえると、既存の個人間決済にかかわる2つの大きな問題、すなわちセットアップの面倒くささと、残高の活用手段を解決しているのだ。

他方、Appleはグローバル企業ではあり、年間2億台以上のiPhoneを販売するプラットフォーマーでもある。Apple自身がなんらかの通貨にあたる価値を発行する母体となる道も、今後模索できる可能性がある。

ちょうど2017年末は、ビットコインをはじめとする仮想通貨が急騰しており、2015年1月に2万円程度だった価値は、150万円に迫る勢いだ。さすがにこの乱高下は投機的であり、日常生活での利用は非現実的だ。ただ将来、国際的に価値が流通するなんらかの手段をAppleが用意することは、検討しても良いかもしれない。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura