RS4へ見送られた「TimeLine」
Windows 10の新機能となる「TimeLine」について説明するには、「Microsoft Graph」を先に解説しなければならない。Microsoft Graphは1つのエンドポイントを介して複数のAPIをOffice 365やMicrosoftクラウドサービスから公開するものだ。メールや予定表、個人用連作先をOffice Graphから取得し、Microsoft Graphを通じて洞察と関係を構築する。その結果として会議スケジュールの自動作成や組織全体の共同作業に伴う成果の可視化が可能だ。
この仕組みをWindows 10にも取り込み、アプリケーションなどの使用履歴と時間軸を結び付けるのがTimeLineである。TimeLineはその構造からWindows 10に制限されることなく、AndroidやiOSデバイスとの連携も可能になる予定だ。中断した作業をCortana経由で再開することで、デバイス間の垣根をなくすMicrosoftの戦略に合致した機能となる。
だが、TimeLineは相当複雑な仕組みであり、機能やUXをブラッシュアップした上で提供しないと、ユーザーの落胆を招くのは目に見えている。そのためMicrosoftは無理に実装するのではなく、Windows 10 バージョン1803以降の実装を決定したのだろう。これに伴い、Windows/Android/iOS間でクリップボードの内容をクラウド経由で共有する「Cloud-powered Clipboard」の実装も、Windows 10 バージョン1709では見送られた。
さて、Microsoftによるマルチデバイス戦略はWindows 10発表当初とは少々状況が異なってきた。筆者が改めて述べるまでもなく、Windows 10 Mobileを搭載したデバイスは苦境に立たされている。同社はWindows 10リリース当初、「1つの体験」「1つのプラットフォーム」「1つのストア」と、Windows 10プラットフォームがすべてのデバイスで動作する構想を掲げたが、Windows 10 Mobileが市場に浸透しないため、iOS/Androidを取り込む戦略に舵を切った。
Windows 10 バージョン1709の「設定」に加わった<電話>は「Android、iPhoneのリンク」という説明からも分かるとおりWindows 10 Mobileは対象外である。
「設定」の<電話>では、iOS/Androidデバイスを対象に、スマートフォンで閲覧中のWebページや操作中のアプリケーションをPCで再開できる |
先の<電話の追加>ボタンを押すと、リンクするためにSMSの送信をうながされる |
本機能が動作するのは説明どおりiOS/Androidに限定され、Windows開発チームは、Windows 10プラットフォームよりも市場の現実に沿った選択を行っている。この是非は棚に上げるが、少なくとも前述したマルチデバイス戦略において、Windows 10 Mobileが対象外となっていることは明白だ。
リンク済みPCが候補として現れるので、再開するPCをタップで選択する |
選択したPCに通知が現れ、そのままWebページが開く。なお、既定のWebブラウザーをGoogle Chromeなどにしても、Microsoft Edgeが起動した |
本節のテーマであるTimeLineは、Microsoftクラウドサービスから得られる洞察をデバイスに縛られることなく活かす機能となる。だが、そこに(執筆時点で)Windows 10 Mobileは存在しない。今回のTimeLine実装延期が、Windows 10プラットフォームの拡充とWindows 10 Mobileもしくはそれに変わるARM版Windows 10など、何らかの道筋を見せてくれることを同社には期待したい。