いかにして『イヴの時間』は劇場化に向かったか?
――『イヴの時間』が劇場作品になるというのはどの段階で決まったのですか?
吉浦監督「プロデューサーは『最初からその予定だった』と言っていたのですが(笑)、僕自身は、劇場版として新たに作り直すことは当初想定していなかったですね。最初の頃、15分×6本で作ったら、それは30分×3本でもあるし、90分×1でもあるので、いろいろなバリエーションで展開ができるよ、というような話は聞いていたのですが……。劇場版の話を聞いたのは、ちょうど5話、6話を作っている頃なのですが、もう少しで終わると思っていたときだったので、すごく驚いた記憶があります」
――まさかの劇場版だったわけですね
吉浦監督「でも、劇場で流すのは、映像作品を作っている人にとってはやはり夢じゃないですか。だから、大変だなって思いつつも、素直にうれしかったですね。やっと来たなっていう感じでもありました」
――WEB配信用に作っていた映像を劇場で上映するとなると、なかなか難しいことも多いのではないですか?
吉浦監督「実はそうでもなくて、どうやら自分は映像を"ムダに作り込む"……というと語弊がありますが(笑)、映画向けの絵で作ってしまうクセがあるんですよ。ちょっと引き目の絵だったり、やたら作り込んであったり。そういう意味では、もともと映像の質的には劇場向きだったのかもしれません」
――CGによる背景は、被写界深度の出し方など、劇場で観ると非常に迫力がありますよね
吉浦監督「実は何気に全シーン、背景には微妙に被写界深度がついていたりするんですけど、これまでのDVD画質だと、そこまでは見えなかったと思うんですよ。もちろん明らかに背景がボケているシーンはありますが、それ以外のシーンも微妙にボカシたりしているので、そのあたりはぜひ劇場で感じてみてほしいですね」
――そのあたりもやはりCGの強みですね
吉浦監督「手描き背景だと均一なボカシ以外は難しいじゃないですか。実際はそうじゃないかもしれませんが、手間を考えるとかなり難しいと思うんですよ。その点CGだと"デプスマップ"が作れますから、被写界深度という点では非常にやりやすいと思います」
――さて、劇場版を作るにあたって、最初の段階から、再編集による総集編といったカタチは決まっていたのですか?
吉浦監督「そうですね。ただ、一話完結の6本の作品を単に串団子のように繋いでも意味がないと思っていたので、これをどうやって一本の映画の流れにもっていくのかというところに苦労しました」
――いかに違和感なく繋ぐかが課題という感じですね
吉浦監督「なので、新規シーンを挟み込みつつ、さらに全体的に調整しながら、繋ぎの部分で話が途切れないように注意しました。あと、新規シーンだけではなく、ある場所では1カットだけ新規のものを挟んだり、またセリフを少し変えたりと、いろいろな試行錯誤を繰り返しています」
――全体で106分という構成ですが、そのうち新規シーンはどのくらいの割合で入っていますか?
吉浦監督「『イヴの時間』は、15分×6本という構成と言われていますが、実は15分、16分、16分、17分、18分、27分という感じで、段々と長くなっているんですよ。なので、オリジナルをそのまま繋いだだけでも、106分という時間は超えてしまうんです」
――ということは、かなり削っている部分も多いということですね
吉浦監督「実はかなり削っています(笑)。新規シーンも最初は5分が目標だったのですが、結局その倍くらいにはなったと思います」