経年変化をプロシージャル生成する(3)~浸食
石像が雨水によって浸食を受けて風化したモデルの生成についての研究もDorsey氏は行っている(「Modeling and Rendering of Weathered Stone」(Julie Dorsey,SIGGRAPH 1999))
金属の錆のケースとよく似ているが、石も雨水の浸食を受けて風化していく。具体的な風化のプロセスはこうだ。まず、雨水と他の物質とが融合して出来た酸化物が石の表層から浸透し(図中のa~b)、これが再結晶化して石の表層部と結合してしまう(c)。ここがもろくなるので、これが今度は剥離してしまい、新たな石の表層を露呈させ(d)、さらに風化は進行していく。
この浸食のプロセスを3Dグラフィックスベースでプロシージャル・アプローチで再現するために、Dorsey氏は、スラブ(Slab)・モデリング構造というアイディアを考案した。
これは3Dモデルをポリゴンで表現するのではなく、3Dモデルの表面を複数枚のテクスチャからなる、いわばボリュームテクスチャで再現する方法だ。3Dモデルの表面に着目して、局所的な断面図を生成してこれをボリュームテクスチャとするのだ。
そして、浸食のシミュレーションを、このボリュームテクスチャの外層に対して行う。
浸食によってボリュームテクスチャの外層のボクセルは削れて消失していく。
最終的なレンダリングは、このボリュームテクスチャを再度ポリゴンモデルに再構築して行うか、あるいはこのままボリュームレンダリングを実行すればいい。
下の図はこのスラブ構造モデルによる浸食のシミュレーション結果になる。
図は、砂岩製の支柱をスラブ構造モデルで浸食をシミュレーションした例で、10万ポリゴンのモデルを240個のスラブに割り当てている。1つのスラブあたり32×32×32ボクセルからなっているとのこと。
左は新品の状態。右は浸食が進んだ状態だ。
より造形の複雑なモデルに対しての実験も行われている。それが下図の「女猟師ダイアナ」像の例になる。
左が新品の状態。ちなみにポリゴン数は130万。右がその浸食した結果となる。向かって左の胸の突起部、頭頂部の凹凸、肩の布のシワなどは強く浸食が進んで丸みを帯びている。この例では、前出の経年劣化のプロシージャルテクニックも同時に実行しているため、大理石に含まれるミネラル分の鉄分が酸化して流れ出て黄色く変色する様も付加している。