さて、ここまでノルウェーの西海岸線を中心にフィヨルドを説明してきたが、ノルウェーの大自然はフィヨルドだけで感じられるものではない。フィヨルドの大自然を堪能するのに欠かせないのが氷河の存在だ。

青く光輝くブリクスダール氷河

先ほど紹介したガイランゲルフィヨルドとソグネフィヨルドの間の高地に広がるのがヨステダール氷河(Jostedalsbreen)。フィヨルドの形状は大昔に氷河よって削られたことでできたが、その"氷河"が現存するのがヨステダール氷河である。ヨステダール氷河の厚さは最深部で400mにも達し、面積は487平方キロメートルでヨーロッパ本土では最大規模を誇る。氷河の周辺には数々の氷舌(支流)があり、氷河のダイナミックさを体感できるため観光スポットにもなっている。

ブリクスダール氷河は山の間を800mにわたり流れ落ちている

山岳氷河のヨステダール氷河から支流のように谷に向かって垂れ下がる形になっている(懸垂氷河という)のが、ブリクスダール氷河(Briksdalsbreen) だ。切り立った谷と谷の間を800mに渡って流れる氷河は近くで見ると青白い光をたたえている。これは光の反射によって生じるプリズム現象によるものだが、とても神秘的だ。かつては氷河を歩くトレッキングも楽しむことができたが、年々氷河の氷が薄くなってきていることや危険度も高くなってしまったため、現在トレッキングツアーはやっていない(スカンジナビア政府観光局の情報より)。

私はトロルカーに乗ってブリクスダール氷河付近まで行ってみたが、まず氷河へ向かう途中に見られる渓谷美に目を奪われた。氷河付近につくと、その迫りくる大迫力に言葉がでなかった。天候もよかったので、日の光の反射を受けて氷河は青白く光り、まるで宝石のようにきれいだった。ただ、天候に恵まれないと、"青白く"は見えない時もあるらしい。先ほど氷河が年々減ってきていると書いたが、ブリクスダール氷河に限らず、温暖化などの原因で年々氷河は減少している。世界氷河モニタリングサービス(WGMS)の2000年~2005年における5年間の観測調査によると、年平均約60cmの氷河が減少しており、その減少スピードは80年代の3倍だという。厚さも対前年より60~70cm程度も薄くなったという結果も出ている。人の手では創ることができない自然美。だからこそ壊さないよう守っていく必要がある。環境について深く考えさせられた。

トロルカーではなく、歩いて氷河付近までやってきた人々

歩いて氷河まで行くにはやや距離があるので、トロルカーを利用。氷河付近が寒いためひざ掛けが用意されている

氷河に到着するまでに見られる風景。流れ落ちる滝や川がいくつもある

ブリクスダール氷河の周りの山々。近でみる迫力とも違うダイナミックさを痛感

10分程度でブリクスダール氷河に到着。あまりの躍動感にこちらに迫ってくるかのようだ

凍っている湖。氷がとても硬く、右のように石を投げてみても割ることはできなかった

ブリクスダール氷河の湖あたり。これだけみると川岸のようにも思える

薄い部分の湖の氷の欠片。この写真ではよく見えないと思うが、拡大して見てほしい。小さな虫が凍っている

また、ソグネフィヨルドより枝分かれしたフィエールランフィヨルドの端にあるフィエールランには、ノルウェー氷河博物館というものがある。ヨステダール氷河についての映像のほか、氷河の自然形態やノルウェーが進めている水力発電が分かりやすいように模型などが設置されており、子どもだけでなく大人も楽しむことができる。カフェもあるので、ちょっと休憩するのにも最適だ。

ノルウェー氷河博物館。ガラス張り部分はカフェになっている

センター内の展示物。氷河のでき方や流れ方などを分かりやすく絵や模型(氷を用いたものも!)解説している