フィヨルド、この言葉を聞くのは学生の時以来……。イメージはなんとなく浮かぶのだが、何かは説明できない。そんな人が多いのではないだろうか。フィヨルドとは、ノルウェー語で「氷河の浸食により複雑な形状をなしている湾、入り江」という意味だ。フィヨルドが見られる地域は、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンのほか、ニュージーランドなどわずかだが南半球でも可能だ。だが、中でもノルウェーはフィヨルドエリアが多く、国の西海岸線は「フィヨルド地方」と呼ばれるほど。入り組んだ海岸線は実に2万kmを超える。世界一長いフィヨルドと呼ばれる「ソグネフィヨルド」や世界遺産に登録されている「ガイランゲルフィヨルド」「ネーロイフィヨルド」はどちらもノルウェーにある。
フィヨルドの誕生は、何百万年も繰り返された氷河期に河床が削られ、1000m級の深い谷が作られたことに起因する。その深い谷に海水が入り込んだで入り江・湾(フィヨルド)となったのだ。その独特な谷の景観と、「ミラーレイク(miller lake)」ならぬ「ミラーシー(miller sea)」のように、断崖絶壁の山が美しく海面に映し出される美しさに今も昔も人々は魅了されてきた。
こうした数えきれないフィヨルドだが、それぞれに特徴があるという。谷の間が広いものや狭いもの、それだけではなく山間部や都市部にもフィヨルドはあり、見られる景色、受ける雰囲気が違って見ごたえがある。
フィヨルドを愛したノルウェーの有名人には、同国出身の音楽家・エドヴァルド・グリーグ(1843~1907年)がいる。グリーグは自分が作曲を行うアトリエをフィヨルドのそばに造り、グリーグ自身と妻の墓はフィヨルドに面するように建てられている。また、名画『叫び』で有名な画家・エドヴァルド・ムンクが愛し、彼の絵画にしばしば描かれているのは、首都・オスロにある「オスロフィヨルド」だ。オスロフィヨルドは、いわゆる"絶景"ではなく、穏やかな湾という印象なので、同じフィヨルドといっても雰囲気の違いに驚くかもしれない。