最後は、実在の潜水艇のスケールモデルを作られた今江科学さんにお話をうかがった。

――こちらの機体は、何というものですか?

「バチスカーフのトリエステというものです。ガソリンを浮力材として用いた初期の潜水艇一般をバチスカーフと呼んでいます」

今江科学さんとトリエステ

――ガソリンは水より軽いわけだから、浮力材として利用できると……。

「船体のほとんどは、そのガソリンタンクですね」

――すると、人が乗り込むのは……。

「船底にあるこの白い球体に乗り込みます」

――ヤマトでいえば、第3艦橋にあたる部分ですね(笑)。これ、狭そうですね。

「直径2メートルの球体ですので、しんかい6500などと同じくらいですね。乗員は2名です」

――潜ったはいいけど、上がってこられなかったら、と考えると怖いですね(笑)。

「それを考慮して、安全策が採られています。球体の前後にある、この2つの白い下を向いた砲弾型のものがバラストなんですが、いざとなったらこれを切り離します。するとその分軽くなり、浮力が生じて上がってくることができます」

――これらのバラストを保持する仕掛けは……。

「電磁石です。ですから万一、バッテリーがショートするアクシデントが発生しても、電気が切れてバラストが落ちますから、自動的に浮上することができるんです。いわゆる、フェイルセーフですね」

――バチスカーフの中でも、特にトリエステを選んだ理由は何でしょう?

「これは初期型の模型なんですが、これを改造したものが世界で一番深く潜った潜水艇なんですよ。1960年にマリアナ海溝のチャレンジャー海淵に潜ったときの深度がおよそ11,000メートルで、この記録は未だに破られていません」

――船首に2つ飛び出た部分がありますが、これが推進力を生み出すわけですか?

「実際のトリエステと同じく、バッテリーから電気を供給し、電動モーターでこの2つのスクリューを別々に回転させて、水中を自由に動き回ることができます」

――ブルドーザーのキャタピラと同じで、左右を同じ回転数にすれば直進し、差が生じると左右に旋回するわけですね。ここに2ch使ってるわけですか?

「そうですね。あと残りもう1chでポンプを動かして、水を船体内に出し入れし、潜水・浮上します」

船首にあるスクリュー

水中を進むトリエステ。右下の三角形の板は安定板

――船体の下についている鎖は、何をするものですか?

「これはバラストチェーンといって、安全装置の1種です」

――と、おっしゃいますと……。

「沈んでいくときに、船底より先にこれが海底に届き、届いた鎖の分だけ重量が軽くなります。すると、微妙なバランスで沈んでいたのが、軽くなったことでちょうど釣り合って、船底が海底に激突するのを防ぎます」

バチスカーフ「トリエステ」側面

水面に漂うトリエステ。船底から垂れ下がっているのがバラストチェーン

――これはベースになったものが、あったんですか?

「なかったので、1隻丸々自分で作りました」

――作るための寸法などのデータは、簡単に手に入ったんですか?

「かなり苦労しました(笑)。日本語の文献はほとんどなくて、終いにはフランス語の古書店に注文したりとか(笑)」

以上が、5月10日(土)に行われる海洋研究開発機構の「施設一般公開2008」での参加型イベント、水中ラジコンデモに向けた準備の模様である。当日は神奈川県にある海洋研究開発機構・横須賀本部にて本番が執り行われるので、興味を持たれた方は足を運んでみてはいかがだろうか。