この40年でロボットは何が変わったのか?
ここでスクリーンには、産総研の女性型ヒューマノイド「HRP-4C」が再登場。
水川氏は「背中に何も背負わない、スリムなボディの中にすべてが入って、かつバランスよく動く。"HRP-2"、"HRP-3"で開発した技術をシミュレータ上のモデルで検証し、それをもとに設計開発したので短期に完成できた」と絶賛した。
だが、"WABOT-1"を作った1972年の頃から現在まで、ロボットのできることは、歩く、踊る、ぐらいで、実はまだほとんど役に立っていない、とも言う。
「コンピュータの性能がよくなって、昔はスピード的に間に合わなかった処理が間に合うようになり、できないと思っていたことができるようになった。それが現実」
当時は、早大の加藤一郎研究室、東京大学の藤井澄二研究室、東京工業大学の森政弘研究室の3校ほどしか本格的な研究をする大学はなかったが、今では非常に多くの学校で研究されている。それでも未だ家電のように買ってきて使うところまでいかない、と水川氏は冷静に現状を分析している。
芝浦工大でのロボット教育カリキュラム
このように実用にはまだ遠いロボットだが、水川氏自身の経験からしても、ロボットを教材に勉強すると総合力が身につき、様々な場面での問題解決に臨めると言う。
そこで芝浦工大では、ロボットの教育プログラムをシリーズ化し、学生や子ども達に提供。このカリキュラムは、「ロボット教材を用いた創造性教育の総合的取り組み」として2003年にグッドデザイン賞を受賞している。
子ども向けのセミナーでは、アルミ板のキットで基本的なメカニズムを学ぶ。中高生や一般の大人向けにはマイコン制御の必要なキットを用意し、大学では自分で部品を買って来て思った通りに設計できるように、というプログラムを組んでいる。
ここで水川氏は「万能の天才」レオナルド・ダ・ヴィンチの名を挙げた。芸術家で医者で科学者、技術者でもあったダ・ヴィンチは、有名なヘリコプターの原型を始め、さまざまな機械も考案している。それだけ多くのことをできたのは、よく観察して真似る、ということを日常的にやっていたからだと言う。
「人体解剖のメモを見ても、骨の構造や腱の付き方など本当に詳細に、徹底的に観察している。そうした観察をもとに、思いつきでなく自然の原理をよく理解していたからこそ、様々な機構を考えることもできた」
芝浦工大のロボットセミナーでもこうした精神を重視しているそうで。子ども達はバラバラのパーツを受け取り、見よう見まねでロボットを組み立てていく。マニュアルを見れば作り方は一通り書いてあるが、子ども達は大抵見ないで作ってしまい、最初は動かない。そこで、マニュアルを見ればいいのか、と気づくのも学習という訳だ。セミナーの指導員も、子ども達が困った時には助けるが、決して自ら手伝いはしないという。
「動かない時に理由を考えて直すことで、それが知識になって身につく。なかなか1つのことに取り組めない子ども達も、やっていることが分かってきて面白いと思えば何時間でも集中してやる。今日話しているのと同じ内容を話してもちゃんと理解できる。子供だましにせず、本物を与えて体験させるのがとても大事」
また、教材のキットは共通でも、外装のデコレーションで各人の個性を発揮してもらうという。サイズと重さの制限を与え、その中で見た目に面白く、対抗戦の時に戦略的な効もあるように工夫してもらうのだそうだ。
こうして完成したロボット同士で最後に競技会を行い、自分が作ったものが思い通りに動くすばらしさを経験してもらう。子ども向けロボットセミナーは、日本だけでなく、シンガポールやアメリカのニューヨークでも開催し、喜んで迎えられているそうだ。