修復作業とロボットたちの今後
修復作業は発表会の会場にもなったKAIT工房で行われる。まずは8月18日、19日の2日間、学生たちの夏休み課外授業の一環として前出の4体の修復作業を実施するという。修復にあたっては、現在の部品を用いて当時の機能的な復元で済ませるのではなく、真空管が使われている部分には真空管を用いるなど、部品が調達できる限り、できるだけオリジナルの状態に戻していく方針をとる。そのため、他のロボットに関しては、できれば今後数年をめどに随時、予算や日程が許す限り修復に取り組んでいく予定。
ロボットたちは、外観は非常に美しい状態を保っているものの、部品の劣化や故障で動かなくなっていたり、「ゆうばりロボット大科学館」での展示のために、本来は動いていた部分が固定した形に改造されていたりもするようだ。
たとえばカメラマンロボットは、大阪万博での展示時には手にポラロイドカメラのボックスが装着されていたが、夕張ではビデオカメラに換装されており、ボックスは残されていない。今回のプロジェクトでは、これもできるだけオリジナルに近い状態へ復元したいとのこと。
もともとが、長年の間、全国を回って無数の実演をこなしてきたロボットたちなので、その都度修理・改造が施されており、ときにはディティールや塗装がリニューアルされたり、名前も変わったりという歴史がある。どの状態をオリジナルとするか判断の難しいところも出てきそうだが、プロジェクトスタッフの健闘に期待したい。
なお、"ジャパンロボットフェスティバル"の後の予定としては、財団では青森や静岡など各地の県立美術館で来年行なわれるロボット企画展への出展も検討しているとのこと。
神奈川工科大に今回預けられた9体の他にも、財団には3体の大型ロボットがあるそうで、現財団理事長の大森氏が理事長を兼務する医療法人社団龍岡会が運営する介護老人保健施設「櫻川ケアーセンター」にも置かれているという。
筆者は昨年、夕張市を訪れ、里帰り前のロボットたちを見学させてもらったのだが、残る3体は、身長2m超のウェルカムロボット「信介くん」、雷さんロボット「ミスター・スパーク」、スタンプロボット「大ちゃんII」と思われる。いずれは彼らの動く姿も見てみたいものだ。
夕張での保管場所となっっていた廃校の体育館で撮影した記録写真 |
ウェルカムロボット「信介くん」(身長215cm)は、「一郎」と同年、昭和34年(1959年)11月3日生まれの次男で、名前は当時の岸信介首相から取られたらしい |
その他にも、検討用であろうカメラマンロボットやモデルロボットのミニチュアサイズ、ロボット楽団の団員となる小型ロボット、次郎氏のコレクションなど数十点の存在も確認していたのだが、今回これらも廃棄などされることなく財団でまとめて引き取られたと聞き、個人的には大変安心した。
次郎氏は「ロボットは人間社会のよき協力者、家庭ロボットであるべきで、それゆえ人間にとって姿・行動なども親近感がなくてはいけない」という確固たる哲学を持っていた。近年言われるような"共生型"ロボットを黎明期からずっと追求し続けた訳で、将来、家庭用ロボットが普及した社会が実現すれば、相澤ロボットは日本ロボット史においてより貴重な遺産となるに違いない。ぜひ今後も大切に保存してほしいと切に願う。
日本が産業用ロボット大国となった1980年代当時から、"ロボットが家庭にやってくる時代ももうすぐ!"ということは盛んに言われてきた。その後、動的二足歩行をはじめロボット技術は格段に進歩したが、残念ながら"夢の21世紀"を迎えて10年が経とうとしても"もうすぐ!"のままで、家庭用ロボットが普及するまでには至っていない。近年の不況で開発が滞ることも懸念されるが、そんな状況の中で、相澤次郎氏の熱い情熱で生み出されたロボット兄弟たちは、未来をわくわくと夢見ていた気持ちを改めて呼び起こしてくれる存在と言えるだろう。
今回の修復プロジェクトの成功に期待しつつ、筆者もぜひ取材で得た情報の提供などで協力できればと考えている。今後のプロジェクト進行についてもできるだけレポートしていきたいと思うので、相澤ロボットのファンは続報を楽しみにして欲しい。