中国のインターネット上で最近頻繁に発生した大規模な「人力検索」の動きが、海外でも注目を集めている。英BBCは中国の人力検索に関するニュースを報道する中で、その中国語表記である「人肉捜索」を「human flesh search engine」と訳したり、さらに欧米読者の理解を助けようと「witch hunt」(魔女狩り)という形容まで付け加えたりした。中国ではやる人力検索が、かつての魔女狩りのようにみえたのであろう。
米国では、マスコミが人肉捜索を「Chinese style internet man hunt」と訳したという。本稿では欧米でも話題の中国の人力検索エンジンブームから、サーチエンジンの未来というものを考えてみたい。
サーチエンジンの弱みを補完する「人肉捜索」
実のところ、いわゆる人力検索エンジンというのは、より多くの人間の参加により、サーチエンジンが提供し得る情報の正確性をより高めようというシステムである。中国には「猫撲(Mop)」というサイトがあり、同サイトの人力検索エンジンは、成功した実例の一つである。臨場感を増すため、以下、中国語で人力検索の意味を持つ「人肉捜索」という言葉を使いながら紹介する。
サーチエンジンとは、機械のオートメーション技術を利用して、ネット上の情報を自動的に収集して整理・提供する技術である。サーチエンジンは、効率とスピードできわめて優れているが、しばしば故意に修飾を施されたような抽象的情報を識別するのが苦手である。
このため、一群の人々が、サーチエンジンの弱みを補完するための情報検索手段を考案し、より優れたサーチメカニズムをつくりあげたいと考えた。それは、より多くの人間の参加、知恵の結集を図り、サーチエンジンから提供される情報を深め、秩序化することだった。これを中国では「人肉捜索」エンジンと呼んでいるのである。
中国における人肉捜索とは、インターネットコミュニティの力、多くのインターネット利用者の力を借り、ある事件、あるいはある人物の真相やプライバシーを追及、その詳細を公開しようというものだ。人肉捜索はインターネットという仮想世界をより現実世界に近いものにする。人肉捜索の出現は、ネットにおける道徳判断に新たな責任追及のメカニズムを持ち込んだといえる。この追及システムの存在を前提に、いかなる秩序をつくっていくのか。
これは、まさに新しいインターネット時代の到来を示すことに他ならない。つまり、来るべき時代では、インターネットが絶えず「現実化」されるだけでなく、現実世界のルールまでこれに伴い修正、あるいは擁護されていくという方向である。