さて、これを読んでいる方の中にはChatGPTやCopilotを活用している方も多いと思いますが、それ以上にたまにしか使っていないという人が多いのではないでしょうか。これが本当に革新的なものなら、以前には戻れない不可逆的な存在になるはずです。しかし、プログラマーやナレッジワーカーの一部を除くと、使い途をまだ見出せていない人が大半ではないかと思います。

1994年にカシオのデジタルカメラ「QV-10」が発売され、2007年にAppleの初代「iPhone」が登場した時も同じでした。騒がれたけど、実際の使い途に悩むデバイスであり、まだフィルムカメラやフィーチャーフォンを手放させるようなものではありませんでした。しかし、デジタルカメラやスマートフォンはインターネットと組み合わさることで瞬く間に新たなコミュニケーションや情報共有の方法として市場を広げ、私たちの暮らしや社会を変えるものになりました。

このAIブームは、インターネット、スマートフォン、ソーシャルメディアに続く変革になる可能性があります。しかし、単なる技術的飛躍で終わってしまう可能性もあります。どちらに進むかは、2024年により明らかになってくると思います。

最後にGoogleの話をすると、同社は最新のLLMで動作する「Bard」の実験的な提供を開始し、12月にOpenAIのGPT-3.5を超えるアップデートを行いました。猛烈な勢いでOpenAIを追っています。

  • OpenAIの躍進に対して、Googleは同社のAIチームとDeepMindを統合してAI研究開発体制を強化、さらに最初からマルチモーダルで訓練した先進的なAIモデル「Gemini」の提供を12月に開始しました

ただ、今年のGoogleには、1990年代後半のEastman Kodakを想起させるところもありました。Kodakの株価が最高値を記録したのは1997年です。銀塩フィルムでの有利な立場から同社はデジタルカメラ技術にも積極的に投資していました。それにも関わらず、デジタルカメラをアマチュア向けと位置付け、プロ向け市場で銀塩フィルムの延命に努めていました。その判断は短期的には正しく、フィルムが不要なデジタルカメラを低価格帯のカメラに限ることで収益は安定しました。しかし、利便性でフィルムを上回っていたデジタルカメラが画質面でもフィルムに追いつくと、瞬く間に市場は塗り変わり、2012年にKodakは破綻しました。

技術、資金、データセンター、ユーザーと、Googleは生成AIを非可逆的なものに高められる全てを持っています。しかし、MicrosoftにとってCopilotが同社のサブスクリプション型のビジネスモデルと相性が非常に良いのに対し、Googleの大きな収益源である検索・広告のビジネスモデルは最終的にユーザー(人)の判断(クリック/タップ)と手間に依存しています。つまり、AIが効果的に情報を提供するほど、今日のように広告収益を上げることが難しくなる可能性があるのです。従来の検索・広告事業を一旦破壊する覚悟で、生成AI技術の本格的な導入に邁進することができるでしょうか。個人的には、2024年のGoogleに期待をもって注目しています。

それらに加えて、後編の2024年の展望では、オンデバイスAI、X代替サービス、フェディバースとソーシャルメディアの細分化、AppleのVison Proなどを取り上げます。お楽しみに!