CharGPTはテキストベースのAIチャットです。AIと対話するサービスなんて音声チャットを含めてこれまでにいくつも登場し、そして今ひとつ大きく普及できずに多くが消え、残りはくすぶっていました。なぜシンプルなテキストチャットのChatGPTが成功できたのでしょうか?
ChatGPTが瞬く間にユーザーを増やせた理由の1つが「誰でも使えるシンプルなユーザーインターフェイス(UI)」です。AlexaやSiriのような音声インターフェースが停滞している理由の1つは、ユーザーが様々な使い方を覚えるのに苦労していることです。音声だから簡単なのだけど、コマンドのようなフレーズを覚えないと使いこなせないというジレンマです。ChatGPTは音声より面倒なテキストチャットですが、その言語モデルは、ユーザーが質問したいこと、やってもらいたいことを自然な言葉で伝えるだけで柔軟に対応してくれます。このAIの優れた対話力は「UIの革新」であり、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の時のようにAppleが真っ先にやってみせてくれなかったは残念な点でした。一方で、Windows 1.0の時のようにタイミング良く取り入れ、再び「シリコンバレーの海賊」となったMicrosoftはさすがでした。
優れたUIであっても、実際に体験してもらわないとその価値は伝わりません。CharGPTが成功したもう1つのポイントは、招待制のような制限を設けずに基本サービスを無料で使えるようにしたことです。無料サービスに慣れきった私たちは無料をつい当たり前に思ってしまいますが、「画像生成で携帯を充電できる」と言われるほど生成AIにはお金がかかります。
それを無料で使えるようにするのは未来への投資です。これはGoogleが、Webメールのオンライン容量がわずか数MBだった2004年に、1GB(1,024MB)のオンライン容量を持つGmailを無料で提供し始めた戦略と同じです。当時のGoogleにとってGmailの無料提供は大きな負担でしたが、それによって誰もがGoogleアカウントを持つようになり、そしてPCのローカル環境で全てが行われていた時代にクラウドサービスを浸透させたことがモバイル時代へのシフトの礎になりました。
無料アクセスを可能にしているのはMicrosoftです。同社はOpenAIに100億ドル規模の投資を行っており、その多くを現金ではなく、Azureへのアクセスという形で提供しています。Statcounterによると、12月25日時点のMicrosoftのBingの検索シェアは3.19%です。Googleは91.54%。OpenAIの対話AI技術をBingに取り入れても、Googleとの差はあまり縮まっておらず、Microsoftは「ババを引いている」という声もあります。でも、それは近視的な評価でしょう。
MicrosoftのAI Copilot(副操縦士)は、同社のサブスクリプション型のビジネスモデルと相性が良く、Microsoft 365の今後の成長ドライバーになると期待できます。また、Microsoftは統合開発環境とクラウドサービスを提供する企業です。数年後にAIがコモディティ化するとしたら、今年のNVIDIAやTSMCと同様にAI時代へのシフトから大きな収益を得られるようになるでしょう。
このように今年のカンパニー・オブ・ザ・イヤーとなったOpenAIですが、年末に誰もが予想しなかった騒動を起こしました。そう、サム・アルトマンCEOの突然の更迭(最終的に復帰)です。
boygeniusが敬愛するNirvana、古くはJoy DivisionやSex Pistolsなど、音楽の世界では革新的なサウンドで新たなムーブメントを起こしながら、成功の大きさと摩擦から短命で終わってしまったバンドがいくつも存在します。テック産業でも、Transmeta、3dfx、Palm、Netscapeなど、大きなインパクトを残しながら勝ち筋を逃した会社がいくつもあります。OpenAIも危うくその1つになってしまうところでした。