◆消費電力測定(グラフ47~52)
次に恒例の消費電力比較を。今回はSandraのDhrystone/Whetstone(グラフ47)、CineBench R24のMulti(グラフ48)、TMPGEnc Video Mastering Works 7の16 streamエンコード(グラフ49)、それとMetro Exodus 2K(グラフ50)を測定、その結果と待機時消費電力をまとめたのがグラフ51、待機時との差を示したのがグラフ52である。
もうそもそも待機時の消費電力が凄まじいのは、そもそもマザーボードの構成も違うからどうしようもないのだが、Metro Exodus以外では300W台で収まるRyzen 7 7950Xに対して常に500W台をキープするRyzen Threadripper 7970X/7980Xは、まぁ圧倒的というべきか。面白いのはグラフ52、つまり平均実効消費電力差の比較でMetro ExodusだけRyzen Threadripper 7970X/7980Xが380W台というのは、要するにそれだけGPUが遊んでいるという証拠と考えても良いかと思う。実際グラフ50を見るとRyzen 7 7950Xはほぼ一定、つまりGPUが常にフル稼働しているのに対し、Ryzen Threadripper 7970X/7980Xは300W近い振れ幅を持って変動しているというのは、それだけ遊んでいる証拠であって、あまり実行消費電力差が低い事は褒められない気がする。
問題は効率であるが、コア数が性能に反映されやすいDhrystone(表2)やWhetstone(表3)ではご覧の通りで悪くない。ただし普通のアプリケーションは? というと、TMPGEnc Video Mastering Works 7(表4)だと辛うじて優位性を保てるが、Metro Exodus 2K(表5)だとまぁRyzen 7 7950Xの方が当然効率が良い。これ、待機時電力を抜きにした数字であるから、実効消費電力の絶対値で比較すると、Ryzen Threadripper 7970X/7980Xの効率は更に悪化する事になる。まぁ効率を目指した製品ではない、と言われればその通りなのだが。
■表2 | Dhrystone(GIPS) | 実行消費電力(W) | 効率(GIPS/W) |
---|---|---|---|
Ryzen 7 7950X | 844.18 | 224.6 | 3.76 |
Ryzen Threadripper 7970X | 1520.00 | 369.1 | 4.12 |
Ryzen Threadripper 7980X | 2390.00 | 339.6 | 7.04 |
■表3 | Whetstone(GFLOPS) | 実行消費電力(W) | 効率(GFLOPS/W) |
---|---|---|---|
Ryzen 7 7950X | 688.43 | 215.2 | 3.20 |
Ryzen Threadripper 7970X | 1210.00 | 368.3 | 3.29 |
Ryzen Threadripper 7980X | 2000.00 | 341.2 | 5.86 |
■表4 | エンコード速度(fps) | 実行消費電力(W) | 効率(fps/W) |
---|---|---|---|
Ryzen 7 7950X | 34.5 | 249.2 | 0.14 |
Ryzen Threadripper 7970X | 61.0 | 394.0 | 0.15 |
Ryzen Threadripper 7980X | 62.5 | 365.7 | 0.17 |
■表5 | フレームレート(fps) | 実行消費電力(W) | 効率(fps/W) |
---|---|---|---|
Ryzen 7 7950X | 169.7 | 453.4 | 0.37 |
Ryzen Threadripper 7970X | 122.5 | 386.0 | 0.32 |
Ryzen Threadripper 7980X | 126.1 | 388.5 | 0.32 |
◆PPT Overdrive(グラフ53~55)
ところでPreviewの最後で、AMDによるRyzen MasterのPBO OverrideによるOverclock動作のデモの様子をお届けしたが、この時に利用されたのはRyzen Threadripper Pro 7985 WXだった。ではRyzen Threadripper 7970X/7980Xで同じことをするとどうなるか、をちょっと確認してみた。
テスト方法は簡単で、Ryzen Masterを起動、Profile 1でPBO Overrideを選び、PPTを1000Wに設定したのちベンチマーク(CineBench R24のMulti Core)を実施するだけである。Ryzen Threadripper 7970X(Photo07)とRyzen Threadripper 7980X(Photo08)だけでなく、Ryzen 9 7950X(Photo09)も同じようにPBO OverrideでPPTを1000Wにしてみた。
ベンチマーク結果はグラフ53である。"(PPT)"とついているのがPBO OverrideによるOverclock動作の結果であるが、当然Single Coreの結果はたいして変わらず。またMultiの方も、Ryzen Threadripper 7980Xはちょっと向上しているが、Ryzen Threadripper 7970Xは殆ど変化が無い。まぁこれは消費電力変動を見れば一目瞭然(グラフ54)で、Ryzen Threadripper 7970Xはちょっと消費電力が増えている程度だが、Ryzen Threadripper 7980Xは最大で870Wにも達している。ただし平均すると650W弱に収まる格好だ(グラフ55)。動作を見ていると、兎に角すぐに95℃のThermal Limitに達してしまい、それ以上動作周波数を上げられない感じである。AMDのデモでも水冷システムは分厚いラジエターと強力なポンプ、更にVRM強制冷却用ファンなどを複数載せた構成になっていた(空冷も同じく)事を考えると、360mmラジエターの簡易空冷クーラーだけという今回の環境は明らかに冷却能力不足で、これがボトルネックになったものと考えられる。Ryzen Threadripper 7970X/7980XでOC動作をさせるには、冷却能力の大幅強化が必須である。
総評と考察
Ryzen Threadripper 7970Xは、それでもまぁまだバランスとして悪くはない。32coreに対して4ch DDR5だから、16core/2ch DDR5のRyzen 7 7950Xと同じコア/Memory Channel比率で、倍とは言わないが1.8倍くらいの演算性能が期待できる。
問題は64coreのRyzen Threadripper 7980Xで、今回のテストを通して一つたりともRyzen Threadripper 7970Xの倍の性能を引き出せたケースがなかった。むしろMemory Controllerがボトルネックになって大幅に性能を落とすケースが続出した事を考えると、このCPUを使いこなすのはかなり難しい。久々にピーキーな製品として仕上がったと思う。しかし64coreですらこれなのだから、One more thingでアナウンスのあった96core製品は更にピーキーだろう。とにかくメモリ性能を大幅に引き上げる必要があるが、Unbuffered DIMMはともかくRegistered DIMMではRegisterの方がOverclock動作のボトルネックになりやすい事を考えると、96coreを使いきれるアプリケーションは相当少ない、というか無いんじゃないかとすら思う。
今回はRyzen Threadripper 7960Xの比較はできなかったが、今回の結果を見るとむしろRyzen Threadripper 7960Xが一番ベター、という気もしなくはない。コア数/Memory Channel比はRyzen Threadripper 7970XやRyzen 7 7950Xよりも改善されるし、24coreに対してL3は128MBが期待できるから、その意味でもメリットは大きい。動作周波数もやや高めにできるし、冷却能力的にもRyzen Threadripper 7970Xよりゆとりがでるから高い動作周波数を維持しやすいだろう。
あとは価格の問題である。マザーボードが概ね14万。Ryzen 7 7970Xが45万だから合計59万円。メモリもRegistered DDR5が必要だから、CPU・Memory・Motherboardの3点セットで65万円コースである。Ryzen Threadripper 7960Xにすれば50万を切る程度、逆にRyzen Threadripper 7980Xは110万ほどになる。この金額を掛ける価値があるかどうか? というあたりだ。
とりあえず筆者的には、TRX50プラットフォームはRyzen Threadripper 7970Xまでにしておくことをお勧めしたい。64coreが欲しければ、TRX90プラットフォームに移行して8ch DDR5を利用しない限り、その性能を引き出すのは難しいだろう。そして個人でお前が欲しいか? と言われると価格性能比が悪すぎて、ちょっと手を出す気にはなれない。実際Gamingであれば、Ryzen 9 7950XよりもRyzen 7 7800X3Dあたりでシステムを組むのが最高速だし、はるかに安価である。そして筆者の用途であるDxO PhotoLabとかNeatImageは、むしろ高速なGPUを組み合わせた方が性能が高い(TMPGEncもそうで、ハードウェアエンコーダが結構良い仕事をする)。そういうGPUで代替の出来ないCPU依存のアプリケーションを抱えていて、かつそれがマルチスレッドにちゃんと対応している、というケースでのみお勧めできるというのが正直な感想である。