ランキングの前に、ミック・テイラー期ってどんな時期?
ブライアンの死を乗り越え、ロンドンのハイドパークで新ギタリストのミック・テイラーを迎えて追悼コンサートを行います。当代きっての名ライブバンドとしては、いまいちな演奏でしたが、キース曰く「出来は最悪レベル、でも最も重要なコンサートでもあった」とのこと。いわゆる「場面」ってやつですね。ミック・テイラーは、ジェフ・ベックやエリック・クラプトンのようなスーパーギタリストだったので、バンドの音楽性はどんどんあがっていきます。
その後、ウッドストックのようなフリーコンサートがやりたくなったストーンズは、カリフォルニア州にあるオルタモント・スピードウェイでオルタモント・フリーコンサートを開きますが、ここでロック史上屈指の悲しい出来事『オルタモントの悲劇』が起こります。ライブを見に来ていた黒人の青年を、警備をしていたヘルズ・エンジェルスが刺殺してしまうのです。もはやコンサートとはいえない異様な雰囲気の中での演奏は、映画『ギミー・シェルター』で観ることができます。
ウッドストックのラブ&ピースな雰囲気を、ネガポジ反転のように悪夢化してしまったこの経験のせいか、以来、若者の怒りの代弁者のようなふるまいは控えめになり、音楽も悦楽的な内容にシフトしていきます。南仏で貴族的に暮らしながら、ドラッグにふける日々。音楽的には充実していましたが、やがてバンド、特にキースに悲劇が訪れるのでした(つづく)。
トップ3から発表します! この3曲です!
・1位:「悲しみのアンジー」 /『山羊の頭のスープ』(1973年):132票
・2位:「ブラウン・シュガー」/『スティッキー・フィンガーズ』 (1971年):113票
・3位:「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」/『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』 (1974年):91票
※n数=663
「悲しみのアンジー」は「黒くぬれ!」同様、日本での人気がとびきり高く、来日公演でもたびたび演奏されています。ストーンズは、セットリスト選びにも気を使うバンドで、「日本でうけるかな」じゃなく、「札幌で、横浜で、うけるかな?」というレベルで検討して、演奏曲を決めるそうですね。さすが、ギネス級の成功バンド。
「ブラウン・シュガー」は、バンドがノリノリ状態のツアー中に、アラバマに寄って録音されたもの。悦楽的な内容の代表曲かな。「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」はストレートな歌詞が魅力ですね。これは後にメンバーとなるロン・ウッドと作った曲です。ロンのソロ・アルバム用のレコーディングではありましたが、ミックに「ちょうだい」と言われストーンズに進呈しています。ロン曰く「なんせ弟子なんだしね、別に疑問には思わないよ」とのこと。大人! ちょっと理不尽なようですが、彼はこの後輩力で、後にバンド加入できることになります。
4位以下も発表します!
・4位:「ダイスをころがせ」/『メイン・ストリートのならず者』(1972年):56票
・5位:「イフ・ユー・キャント・ロック・ミー」/『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』 (1974年):54票
・6位:「キャン・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」/『スティッキー・フィンガーズ』 (1971年):43票
・7位:「ワイルド・ホース」/ 『スティッキー・フィンガーズ』 (1971年):40票
・8位:「ムーンライト・マイル」/『スティッキー・フィンガーズ』 (1971年):36票
・9位:「タイム・ウェイツ・フォー・ノー・ワン」/『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』 (1974年):34票
・10位:「ハッピー」/『メイン・ストリートのならず者』(1972年):29票
※n数=663
「ワイルド・ホース」は、哀愁ただようカントリー調の名曲ですが、この曲はフォーク・ロックバンド、ザ・バーズのメンバーだったグラム・パーソンズという人物の話なしには語れません。裕福な家庭に生まれながら、父は自殺、母もアルコール中毒で死亡という波乱万丈の人生を送ったグラムは、キースと兄弟のように仲が良く、所属していた人気バンド、ザ・バーズの活動をほっぽりだして、キースとのセッションに没頭。カントリー界のジミ・ヘンドリックスと呼ばれた才能豊かなグラムの影響を受け、キースのカントリー志向がどんどん高まりました。
この曲は、そんな中で生まれた曲ですが、ストーンズの曲をカバーしたグラムの新バンド、フライング・ブリトー・ブラザーズのカバー版の方が、ストーンズより1年も先に発売されています。世界的人気バンドの曲のカバーをオリジナルより1年も前にリリースするのは普通ありえないですが、キースとグラムの仲ならではです。また、この曲の叙情的な歌詞も格別。これはミックの才能です。歌詞の文体はワイルドでも、文学性は高いというギャップね。そりゃ文化系女子がころりとやられるはずです。
この時期、アルバム単位でどれか一枚と言われたら
『スティッキー・フィンガーズ』(ユニバーサル ミュージック)ですかね。自分たちのレーベル一発目のスタジオ・アルバムで、ベロマークが初登場したのもこのタイミング。前2作もブルース臭はプンプンですが、本作はイギリス臭がいよいよ薄れて、アメリカ~ンな感じ。次の『メイン・ストリートのならず者』は2枚組のさらに重厚な内容のアルバムで、じっくり浸るならこっちなんですが、初めて聴く人にはやや重いかなと。このアルバムの適度な軽さと、「ブラウン・シュガー」→「スウェイ」→「ワイルド・ホース」という、ストーンズの魅力をグッと3曲に圧縮したような流れが最高です。あとは、ポップアイコン的な価値もあると思います。壁に飾っておくなら、このアルバムですね。