最後は、IIJの矢吹重雄氏、総務省の大内企画官に日経BP社の「日経クロステック」先端技術副編集長の堀越功氏を交えて、IIJ堂前氏の司会でパネルディスカッションが行われた。堀越氏は著書「官邸vs.携帯大手」で、携帯電話市場には(1)3社体制の呪縛、(2)囲い込みの呪縛、(3)月額収入の「呪縛」という「3つの呪縛」があると指摘したことを挙げ、3つの呪縛のうち(2)と(3)はある程度改善されたものの、(1)については公正競争環境にまだ課題があるという認識を示した。
堀越氏が示した3つの呪縛のうち「3社体制の呪縛」について、IIJ矢吹氏は「ギガプランについては、ルールに基づいて最大限挑戦してMVNOらしさをアピールする意志を込めた」とは言いつつも、あくまでルール内での挑戦であり、3社体制の呪縛を打ち砕くには、今後ルールが大きく変わっていく必要があるという認識を示した。
大内企画官は、利用できる周波数帯に制限がある以上、モバイル市場はある程度協調的寡占になるのは仕方がないとしつつ、何もしなければ寡占状態になってしまうので、設備を持たざる者であるMVNO市場を作り上げて活性化し、競争を生み出していかねばならない特殊な市場であるという認識を示した。そしてMNOとMVNOの間のサービス競争と、MNOの間の設備競争という2つの競争がある中で、接続料を安くすれば競争は激しくなるが、設備を持っている側としてはタダ乗りに見え、高くなれば寡占になる、そのバランスを取らねばならない。だがこれまでの政策が現状に追いついているとは言えないため、より未来を見据えた政策を作っていく必要あるとした。
堀越氏は料金が劇的に下がったことで、競争が起きているとは思っているが、3社体制が維持されたままの競争になることへの危惧を表明。また、MVNOがMNOとの競争力を高めるには、持たざるものの強みを生かしたアプローチを取るべきとし、一例としてリテラシーの低いユーザー向けに「料金を選ばせない」サービスを提供するといったアイデアを披露した。
多様化については、堀越氏は料金以外の競争軸として「多様化」が必要という認識を示し、現在の携帯電話料金は、コンテンツを使うための配送料であると指摘。いわば新聞の配送料を別枠にしたような建て付けであり、付加価値を付けるにはサービスと一体化した料金などが登場することで、より多様なサービスにつながるのではないかと指摘した。
大内企画官は、日本よりMVNOのシェアがはるかに高いドイツでは、音声に特化したMVNOや、小売店が運営するMVNOがあることを紹介し、料金以外の競争力はあり得るが、そのためには市場全体の多様化が必要であり、そのために必要なものがあれば総務省は尽力すると表明した。
矢吹氏は、例えば自社コンテンツのダウンロード専用のサービス(Kindleの4Gモデルなど)や、ドライブレコーダー用にデータアップロード専用のサービスなどは、通信容量が予見できるので設計しやすいが、地域限定や超高速通信、超低速通信など、様々な形の回線を作ることが技術的には可能であるものの、接続料のコストが割に合わないケースが多いと言い、5GSAでスライシングが可能になればひとつのきっかけになるが、そのためには政策面での情報提供のタイミングをMNOと同じにして欲しいと総務省に注文をつけた。また、せっかくこれだけ変更しやすい環境が整い、料金も下がったのだから、「総理大臣や総務大臣が電話会社を変えるデモンストレーションを行えば国民が注目するだろう」と語って笑いを誘っていた。