続いて、今回のゲストである総務省・総合通信局料金サービス課の大内康次企画官が登壇し、「モバイル市場の現状と政策動向」と題した発表を行った。実はIIJmio meetingでは、以前からしばしば(概ね2年に1度程度)総務省の料金サービス課の方をゲストに招いての講演が行われており、最近では#23でも同課の大塚康裕企画官が登壇している。
総務省といえば、幹部級職員らや企業から繰り返し接待を受けていたことが明らかになり、政策の公平性や決定プロセスの透明性などが問われている、今まさに大炎上中の官庁だ。世論や国民感情を考えると、オンラインとはいえ国民の前に引き出されてしまった感のあるゲストの大内企画官にはお気の毒としか言いようがない(幸い、IIJmio meetingの参加者は理知的で、不要な批判等は見られなかったが)。
さて、料金サービス課といえば、MVOやMVNOの料金体系などを監督する部署だ。固定・移動体の両方を扱うが、最近は特にモバイル通信の重要度が増しているという。そんな部署について、我々ユーザーサイドが特に気にかかるといえば、MNOが開始する格安プランとMVNO政策の関係だろう。
官房長官時代から携帯電話の値下げに並々ならぬ熱意を示していた菅総理大臣らの働きかけにより、ドコモの「ahamo」をはじめとした「音声付きで2,980円・20GB」という格安コースが3大MNOから登場したのは皆さんよくご存知だろう。しかし大内企画官によれば、総務省は料金の公正さについては強く指導してきたが、料金を安くしろといったことは一度もないのだという。
もともと菅総理大臣らの主張では、日本のモバイル通信は諸外国と比べて高額であるというのが、値下げへの働きかけの論拠だった。大内企画官によれば、日米はMNOのシェアが比較的高いが、欧州では競争が進んだ結果、第4のMNOやMVNOのシェアが高くなっており、通信料金もそれに応じて低くなっているという。総務省としては、日本でも公正競争を進めることで多様で魅力的なサービスが生み出され、結果として料金が安くなることは否定しないが、あくまで国としては公正競争の推進が一義である、ということだ。
公正競争実現への取り組みとしては、(1)わかりやすく納得感のある料金・サービスの実現、(2)事業者間の公正な競争の促進、(3)事業者間の乗換えの円滑化が挙げられ、具体的な活動としては、携帯電話の「頭金」の概念が異なる点を消費者庁と共同で是正したことや、中古端末流通の推進、番号ポータビリティをより円滑に行えるよう、キャリアメールについてもポータビリティを推進するという。また、eSIMの積極的な推進や、SIMロックに関するルールの見直し(原則ロック禁止へ)なども行われている。
MVNOに関しては、MNO3社の新プラン登場を受けてMVNO事業者側(テレコムサービス協会MVNO委員会)がデータ接続料の引き下げを求める要望書を総務省に提出しており、コスト構造の適正化などを含めて検討を進めていくという。またMVNOのデータ通信接続料においては、従来の「実績原価方式」から「将来原価方式」を採用することでMVNO側のキャッシュフロー負担の軽減を図るなどの取り組みを進めており、「3年で半減」という目標を予定より前倒しして達成する見込みだという。
一方で音声卸については、MVNO委員会から低減の要望が寄せられたことや、MNO各社がプレフィクス自動付与機能の実装を行なったことから、代替性の検証を再度行っているところだという。時期については明示しなかったものの、音声卸の値下げについても近々実現しそうな気配を感じられた。
また5Gに関しては、ネットワークの仮想化が進むことで、機能をスライスとして切り出して提供するようになると予想し、MVNOの姿もまた多様化することが予想されるため、新たな公正競争環境の実現に向けたルール作りを今後実施していくという。このあたりは5G(SA)が実現してからの話になるが、予めMVNOが活動しやすい仕組みが用意されることを期待したい。
このほかの取り組みとして、携帯電話料金やMNPなどの周知を行うために「携帯電話ポータルサイト」を設立したり、「スマホ乗換相談所」をモデル事業として設立するといった取り組みについても紹介された。
大内企画官はある意味非常に官僚らしい、細かく膨大な資料(詳細は「てくろぐ」で公開)を用意して、多岐にわたる政策への詳細な説明を行なってくださった。総務省の基本姿勢としては、とにかく公正競争ができる環境づくりをすることで、ユーザーの流動性を高め、競争の結果として通信料の低減などにつなげたいようだ。ただ、ここ数年の動きを見る限り、どうもその狙いは思惑通りに進んでいるように見えない。もし官邸からの横槍によって政策自体が歪められてしまったのであれば、必要に応じてきちんと修正していただきたいところだ。特にMVNOとそのユーザーについては、最も影響を受けやすいところだけに、今後どのような政策が取られていくのか、引き続き注目したい。