今回の発表会では、HomePod miniでもiPhoneでも、しきりに「Computational」という単語が強調されていた。センサーだけに頼らず、アルゴリズムやAIの演算パワーを活用することで、より良い(と感じられる)出力を目指すのが近年のトレンドであり、たとえばGoogleはPixelシリーズのカメラで、ハードウェアの性能以上の撮影結果を得られることをアピールしている。あるいはAirPods Proのノイズキャンセルや、スペーシャルオーディオも一種のComputational Audioと言っていいだろう。

フィルム時代から写真に携わっている人にとっては、Computational Photographな写真は邪道と感じられることもあるだろうが、人間の脳だって、入ってきた情報をそのまま受け入れるのではなく、脳の中で都合よく脚色処理している。そもそも人間の感覚器に捉えられない光や音は現実世界の中に存在していて、人間が認識できていないだけで、それらを認識できる機器の情報を使ってはいけない、という理由もないだろう。

最近はスマートフォンの性能もPCに匹敵するほど高まってきているが、それだけの性能を多くの人が実感できる形で享受できていたかというと、必ずしもそうではない。しかし、日常使う写真撮影やビデオ、音楽といったところで、より素晴らしい体験を実現するためにコンピューティングパワーが使われるというのは、正しい方向性の進化で、大変好ましい。

ここ数年のApple製品は、高スペックでも投げっぱなし感が強かったのだが、今回発表された製品については、きちんと使い方の提案が感じられる。個人的には(放っておいても売れるiPhoneより)HomePod miniがたくさん売れてほしいと思っている。