◆消費電力その1(グラフ109~115)
性能そのものは以上だが、気になる消費電力について。まずは何時ものように、SandraのArithmetic Benchmark(グラフ109)、POV-RayのAll CPU(グラフ110)、TMPGEncで4Streamの同時エンコード(グラフ111)、3DMark FireStrike Demo(グラフ112)、それとFinal Fantasy XVの2K・標準品質(グラフ113)における消費電力変動を確認してみた。それぞれの平均値、及び待機時の消費電力をまとめたのがグラフ114である。ここでTMPGEncはPeakとAvgの2つがあるが、これはグラフ111の中で示すように
- Peak:スタート直後の消費電力の高い時期の平均。Ryzenは1段階だが、Intel系は2段階で消費電力が変わるので、この2段目が終わってAvgと変わらない所に落ちるまでの間の平均消費電力を取得
- Avg:スタート後70秒~150秒の、消費電力が安定した時期の平均を取得
となっている。
さて、まずそもそも論として、Comet Lake-Sの3製品はIdle時の消費電力が結構高め(他に比べて20W以上高い)だが、これがCPUに起因するものか、マザーボードに起因するものかははっきりしない。まぁ今回比較対象のROG STRIX Z390-F GamingとかTUF Gaming X570-PLUSに比べると、オンボードの表示機能なども充実しているし、VRMの数もそれなりに多い(=そのVRM制御のためのコントローラの数も多い)から、ある程度消費電力が上がるのもやむなしだが。ただそれを勘案しても、やっぱりComet Lake系の消費電力は高めである。TMPGEncが良い例で、PeakとAvgの差が
Ryzen 7 3800X | 28.6W |
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Ryzen 9 3900X | 39.4W |
Core i9-9900K | 143.5W |
Core i5-10600K | 36.4W |
Core i7-10700K | 83.0W |
Core i9-10900K | 82.0W |
となっている(一番飛び抜けて差が大きいのはCore i9-9900Kだが、こちらはAvgが低いのが理由でもある)。
グラフ115が、待機時消費電力との差を取ったものだ。やはりこうしてみると、全般的にComet Lake-S(というか、Core i7-10700KとCore i9-10900K)の消費電力の多さが目立つ感じになっている。
試しに効率を試算してみた。表2は、SandraのDhrystone/Whetstoneの性能と消費電力から、効率(GIPS/W及びGFLOPS/W)を算出したもので、もう見てお判りの様にRyzen系の方がかなり効率が良い(特にRyzen 9 3900Xの効率の良さは特筆もの)事が判る。
■表2 | ||||||
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R7 3800X | R9 3900X | i9-9900K | i5-10600K | i7-10700K | i9-10900K | |
Dhrystone Score (GIPS) | 371.85 | 547.17 | 394.28 | 309.78 | 422.27 | 519.58 |
Whetstone Score (GFLOPS) | 230.62 | 335.14 | 232.42 | 182.33 | 254.31 | 311.61 |
Dhrystone Power (W) | 162.1 | 195.4 | 195.2 | 179.9 | 242.4 | 255.9 |
Whetstone Power (W) | 154.5 | 180.8 | 173.3 | 163.2 | 211.7 | 214.8 |
Drystone効率 (GIPS/W) | 2.29 | 2.80 | 2.02 | 1.72 | 1.74 | 2.03 |
Whetstone効率 (GFLOPS/W) | 1.49 | 1.85 | 1.34 | 1.12 | 1.20 | 1.45 |
表3はPOV-Rayで、消費電力と所要時間から消費電力量を算出したものだ。こちらは当然少ないほど有利であるが、Ryzen 7 3800Xでも9000W・sec台、Ryzen 9 3900Xでは8000W・sec程度なのに、Intel系はいずれも10000W・sec台である。まぁ判っていた話ではあるが、やはり14nm++のCoffee LakeやComet Lake-Sでは、TSMC N7のRyzenと比べるには分が悪いようだ。
■表3 | ||||||
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R7 3800X | R9 3900X | i9-9900K | i5-10600K | i7-10700K | i9-10900K | |
POV-Ray時間 (sec) | 53 | 38 | 54 | 65 | 39 | 34 |
POV-Ray消費電力量 (W・sec) | 9031.2 | 7980.0 | 11280.6 | 12402.0 | 12218.7 | 10608.0 |
表4は、FFXV Benchmarkの効率を示したものだ。確かに絶対的なスコアで言えば、Intel系の方がやや上であるが、その分Ryzen系は消費電力が少ない。では、消費電力1Wあたりのスコアは? というのがこれである。Intel系の中で一番効率が良いのがCore i5-10600Kというのは、Game BenchmarkでもしばしばCore i5-10600Kがトップスコアだったことを考えるとなかなか示唆的ではある。
■表4 | ||||||
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R7 3800X | R9 3900X | i9-9900K | i5-10600K | i7-10700K | i9-10900K | |
Score | 14222 | 14631 | 14827 | 15081 | 15039 | 15016 |
消費電力 (W) | 293.9 | 309.6 | 357.1 | 318.9 | 346.7 | 364.8 |
効率 (Score/W) | 48.4 | 47.3 | 41.5 | 47.3 | 43.4 | 41.2 |
◆消費電力その2(グラフ116~123)
さて、大まかな傾向はここまでで見えてきていると思うが、今回は一歩踏み込んで動作周波数と消費電力の傾向をもう少し明確にしてみたいと思う。具体的には
(1) Intel系CPUはIntel Extreme Tuning Utility(Photo33)、AMD系CPUはRyzen Masterを利用し、動作周波数を2GHzから少しづつ(2~3.8GHzまでは200MHz刻み、4GHz以上は100MHz刻み)引き上げてゆく。
(2) 周波数変更後、AIDA64のSystem Stabilty Test(Photo34)を利用し、CPUとFPU、Cache、System Memoryに負荷を掛けた状態を2分間維持。その後5秒のIntervalを置く。
(3) この2分間の維持中の消費電力を測定する。また、ここでCPU Throttlingあるいは異常動作、シャットダウンなどが起きたらそこでテスト終了
というシナリオである。
- Ryzen 7 3800X(グラフ116)
4.4GHzあたりでThermal Throttlingらしきものが発生。4.5GHzでOverheatによりSystem Shutdownが発生。なので信用できる消費電力は4.4GHzまでとなる。 - Ryzen 9 3900X(グラフ117)
4.2GHzでTest Error(負荷テストで演算エラーが発生、負荷テストそのものが強制終了)(Photo35)。なので、4.1GHzまでが信用できるデータではあるのだが、既に4.1GHzでThrottlingが発生している様に見える。 - Core i9-9900K(グラフ118)
4.2GHzでPower Limit Throttlingが発生したので、4.3GHzでも同様にThrottling発生を確認して終了。 - Core i5-10600K(グラフ119)
4.6GHzでCurrent/EDP Throttlingが発生。4.7GHzに設定しても動作周波数が上がらなくなったので、4.6GHzでテスト終了。 - Core i7-10700K(グラフ120)
4.7GHzでPower Limit Throttlingが発生。4.8GHzではより顕著になったので、ここでテスト終了。 - Core i9-10900K(グラフ121)
4.5GHzでPower Limit Throttlingが発生した(Photo36)ので、ここでテスト終了。
これらについて、それぞれの2分間(Throttlingが発生した場合は、その直前まで)の平均消費電力をまとめたのがグラフ122である。
面白いのは、2GHzの時点でRyzen系がかなり消費電力が大きい事だが、逆にこから4GHzまではほぼ線形に消費電力が増える形である。対してIntel系は指数関数的に消費電力が増えている。この結果
- Ryzen:Power Limitの前にThermal Limitが到来する。実質、200WあたりがPower Limit。
- Core i9-9900K:Thermal Limitの前にPower Limit(175W)が到来する。
- Core i5-10600K:Thermal Limitの前にCurrent/EDP Limitが到来する。この時点で190Wほど。
- Core i7-10700K/Core i9-10900K:Thermal Limitの前にPower Limit(225W)が到来する。
といった結果になっている。
実のところ、Core i7-10700K/Core i9-10900Kの性能の高さは、このPower Limitの引き上げによる動作周波数の向上による部分が大きく、コアそのものの素性はCoffee Lake世代のCore i9-9900Kとほぼ変わりが無いように思われる。ただ、動作周波数を引き上げる事でタイミングがクリティカルになる事を避けるために、L1~L3キャッシュのLatencyを若干増やして安全動作を目指した(これはSandraのCache/Memory Latencyの結果から明らか)という事かと思う。
逆に言えば、仮に同じ消費電力/動作周波数で換算したとするならば、Comet Lake-SはむしろCoffee Lakeよりも性能が落ちる事になる。何というか、ぎりぎりのチューニングで性能を出しているという感じである。
◆考察
ということでComet Lake-Sの性能評価を一通りご紹介した。確かに性能は高い。一方でそれは、上位モデルではCoffee Lakeに比べてTDP枠が95Wから125Wへと30W引き上げられたことで高速動作が可能になった面が大きい、という製品でもある。そしてCore i9-10900Kでは遂に10コアに達した訳だが、コア数が特に効いてくるアプリケーション(それこそエンコードとかRAW画像の現像とか)を想定するのであれば、よりコア数の多いRyzen 9の方に軍配が上がるという現状でもある。Core i9-10900Kについては最大5.3GHzとアピールされているSingle Thread性能でも、今回テストした限りでは、Gamingで言うならばCore i5-10600Kがしばしば最高速だったことを考えると、手放しでアドバンテージがあるとは言い難い場面もある。
価格面については、直近の話で言えば、昨日の記事では秋葉原の予約価格はCore i7-10700Kが56,000円前後、Core i9-10900Kが72,000円前後となっている。対してRyzen 7 3800Xは48,000円前後、Ryzen 9 3900Xでも60,000円ほどである。価格がこなれてくれば多少価格差が縮まる可能性はあるかもしれないが、加えて言えば、今回はプラットフォームの入れ替えになる訳で、新規マザーボードが必要である。それでありながら、DDR4-3200とかPCI Express Gen4未対応というのは、ちょっと考えるところだ。
さて、今年の夏はまた猛暑になると予測されている訳だが、消費電力の観点でCore i7-10700K/Core i9-10900Kは多めで、という事は発熱が多い訳で、より冷房の能力を必要とすることになる。その意味では、熱を気にする向きならより消費電力が少なく抑えられているCore i5-10600Kの方が好ましい気がする。
ということで筆者としては
- 現在Coffee Lakeを利用しているユーザーで、多少の手間やリスクが許容できる、ということであれば、BIOS SetupでCPUへの電力供給リミットを引き上げてやれば、無理にComet Lake-Sへの乗り換えを考えなくてもよいかもしれない。
- 10コアにコア数以上の期待は抱かない方がよい。もしコア数をもっと欲しい、というユーザーであれば、今回テストしたようなシチュエーションでは12コアのRyzen 9 3900Xとか、今回はテストしなかったが16コアのRyzen 9 3950Xの方が多分満足度は高い。
- そろそろシステム更新の時期なので、ここは一つ新しめの構成(かつIntel)で、というユーザーは、ハイエンドのCore i9-10900Kではなく、Core i7-10700KとかCore i5-10600KのComet Lake-Sの方が幸せになれるしお財布にも優しい。実際、エンコードとかを多用すると不満は残るが、そうでなければCore i5-10600Kの性能/価格比(まだ国内の予価が出ていないが、換算レートから考えて31,000円前後と想像される)や性能/消費電力比は非常に良好だし、Gamingでも全く不満は感じなかった。
というあたりだろうか。なかなか厳しい評価になってしまったが、ライバルも強力ななか、致し方ないところではある。コストが気にならないなら最上位のCore i9-10900Kなのかもしれないが、バランスではCore i5-10600Kの方が好感触であった。読者の新マシン選びの参考になれば幸いである。