1997年には、連続テレビシリーズとしてひさびさに"復活"を果たしたウルトラマンシリーズ『ウルトラマンティガ』(放送開始は1996年)へのシナリオが、笈田雅人プロデューサーから依頼された。上原氏は依頼を受ける条件として「エピソードの中に円谷英二、円谷一、金城哲夫を登場させたい」と要望を出した。『ティガ』がウルトラマン生誕30周年を記念した作品ならば、ウルトラマンを生み出した"神々"に作品の中でオマージュをささげたいという考えからだった。笈田氏がこれを快諾したことによって、上原氏は自身の円谷プロ時代の回想を盛り込んだ「特別篇」というべき第49話「ウルトラの星」を執筆した。
「ウルトラの星」は、未来の円谷プロ(設定年代は2007年)に「円谷英二監督に会いたい」と言う謎の怪人チャリジャが現れるところから始まる。チャリジャは「1965年の円谷プロ」なら円谷英二監督に会えると知り、異空間を通ってタイムトラベルを行うが、それを追ってきたGUTSのダイゴ隊員も1965年に飛ばされる。当時の円谷プロではまさに『ウルトラQ』撮影の最中だったが、文芸企画室の金城哲夫は新たに始まる空想特撮シリーズの第1話シナリオがどうしてもまとまらず、苦悩していた……という筋書き。特筆すべきは、円谷一の役を実子である円谷浩が演じていることで、なんとも粋なキャスティングであった。次作『ウルトラマンダイナ』(1997年)ではミヤタ参謀役でレギュラー出演した円谷浩のリクエストを受け、上原氏はミヤタの主役編となる第45話「チュラサの涙」を執筆している。
1999年には、筑摩書房から書き下ろし単行本『金城哲夫 ウルトラマン島唄』を上梓。これは90年代中盤に企画され、映画化を想定して上原氏が執筆した長編シナリオ『M78星雲の島唄―金城37才・その時―』をベースに、1975年に故郷・沖縄で早すぎる死を遂げた盟友・金城哲夫氏が円谷プロでどのような創作活動をしたか、上原氏の目に映った円谷プロと金城氏の姿、そして金城氏が沖縄へ帰った"理由"をドキュメント・タッチで追い求めた一冊で、上原氏が円谷プロに在籍していた時代をふりかえった「自伝」としても読みごたえのある内容だった。
その後、上原氏はラジオドラマ『ウルトラQ倶楽部』(2003年)や『ウルトラQ ~Dark fantasy~』、『怪奇事件特捜チーム S・R・I 嗤う火だるま男』(2004年)など、かつての円谷プロ作品にオマージュを捧げる作品を多く手がけることになる。多彩な脚本陣、監督陣が豪華競演を果たした『ウルトラマンマックス』(2005年)では第13話「ゼットンの娘」第14話「恋するキングジョー」(いずれも監督:八木毅)の2本を執筆し、ウルトラマンマックスを助けに現れる新ヒーロー・ウルトラマンゼノンを描いたほか、かつての人気怪獣ゼットンとキングジョーを21世紀によみがえらせた。上原氏は後年『マックス』当時をふりかえって「最初は自分が書いたレッドキングを出したかったが、すでに別のチームが出していた。だからウルトラ怪獣の中でも最強と言われるゼットンとキングジョーを選んだ」と話していた。
1990年代の終わりごろから数年間にわたって、金城氏の命日である2月26日に高田馬場の沖縄料理店で「金城哲夫を偲ぶ会」が催されていた。平成『ウルトラセブン』(空飛ぶ大鉄塊)を手がけた「おおいとしのぶ」氏が幹事を務め、上原氏を含むウルトラマンシリーズゆかりのスタッフ(光学合成の中野稔氏、プロデューサー・怪獣デザインの熊谷健氏、飯島敏宏監督、シナリオの田口成光氏など)と、金城氏を敬愛する特撮ファンたちが集まり、ウルトラマンシリーズを中心とした話題で盛り上がるとともに、泡盛や沖縄料理がふるまわれる陽気な宴だった。参加者の中には双葉社『怪奇大作戦大全』『帰ってきたウルトラマン大全』で上原氏に取材を行ったライターの白石雅彦氏もいた。2007年の「金城哲夫を偲ぶ会」の席で、筆者と白石氏は上原氏から斉藤振一郎氏を紹介された。斉藤氏はシナリオライター上原正三の熱烈なファンで、かつての名書『宇宙船文庫 24年目の復讐』に未掲載のシナリオを集めた「上原正三シナリオ本」を出したいと上原氏に手紙を書いたのだという。編集や出版のプロなら他にもたくさんいるはずなのに、なぜ私たちに任せてくれるのですか?と尋ねたことがあったが、上原氏は「今までやったことがない、熱意のある奴らにやらせたいと思ったんだよ」と笑いながら答えてくれたように覚えている。
それから毎月一回、多いときには週一回のペースで、上原氏を含む4名が中央林間の喫茶店に集まり、どんなシナリオ集にするか話し合いを重ねた。同時に斉藤氏がシナリオ集を出してくれそうな出版社をピックアップし、訪問していくといった地道な活動も進んだ。斉藤氏が訪れた出版社のひとつに、現代書館があった。社長の菊地泰博氏は斉藤氏の説明を半分くらい聞くと「やりましょう」と言った。上原氏と同世代の菊地社長は、上原氏の作品が持つ「反骨の精神」を鋭く感じ取り、シナリオ集を出す必要性を瞬時に理解したのだと思った。
2009年8月に、上原氏の45年間にわたるシナリオライター生活の集大成というべきシナリオ集が発行された。書名が『上原正三シナリオ選集』に決まったのは、上原氏が「『金城哲夫シナリオ選集』(アディン書房)の隣に並べたいからね」と言ったことが決め手になっている。膨大な作品数の中から50本にまで絞ったのだが、それでもハードカバー・全744ページという極厚の書籍となった。
2017年、かねてから上原氏がこつこつと執筆を続けていた自伝的小説『キジムナーkids』がついに完成し、現代書館から出版された。終戦間もない沖縄を舞台に、米軍の占領下にあってもたくましく生き抜く子どもたちの姿を描いた本書は2018年、優れた児童文学を選出する「第33回坪田譲治文学賞」を受ける栄誉に輝いた。
ここまで、筆者の個人的な思い出も交えつつ、上原氏のシナリオライター人生をいささか駆け足ながらふりかえってみた。この場でタイトルを挙げることができなかった作品もたくさん存在し、改めて上原氏の手がけたシナリオの作品数、エピソード数の膨大さに驚かされる。上原氏は『ウルトラマンティガ』「ウルトラの星」の執筆時、円谷英二監督、円谷一氏、金城哲夫氏を"神々"と呼んでいた。上原氏もまた、次代を担う特撮クリエイターや特撮ファンたちから"神"のひとりに数えられる存在である。
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載