『太陽戦隊サンバルカン』のあと、上原氏は「戦隊シリーズを何作も続けてきて、マンネリになる前に降板したい」と吉川氏に申し出たが、吉川氏からは「戦隊」ではないまったく新しい特撮ヒーローシリーズをやってほしいと依頼された。それが『宇宙刑事ギャバン』(1982年)だった。それまでの等身大"単体"ヒーローにはなかった全身メタリックな硬質のキャラクターデザインを見た上原氏は「何か新しいものが生み出せそうだ」と直感したという。『ギャバン』では、『バトルフィーバーJ』でバトルケニア、『電子戦隊デンジマン』でデンジブルーを演じたアクション俳優・大葉健二が一条寺烈/ギャバンに抜擢された。上原氏は大葉氏を評して「戦隊の5人に負けない魅力を1人で打ち出すに十分な俳優。人間味があって、絶対に嘘なんてつかないみたいな顔をしているのがいい」と語り、メタリックなヒーローの内面に熱い血の通った人間像を求めていたことを明かした。
『宇宙刑事ギャバン』は特撮技術の躍進とJAC(現JAE)が魅せる超人的アクション、そして上原氏をはじめとするスタッフ各氏の尽力などさまざまな要素が結集したことにより、「スーパー戦隊」に匹敵する人気を獲得することができた。続いて『宇宙刑事シャリバン』(1983年)『宇宙刑事シャイダー』(1984年)とシリーズ化された「宇宙刑事」は、メインターゲットとなる子どもたちだけでなく、アニメや特撮を愛する青年のファン層にも強くアピールし、特撮映画やテレビ作品を取材・研究する雑誌『宇宙船』(朝日ソノラマ/現在はホビージャパン)や『アニメック』(ラポート)でも宇宙刑事シリーズの特集が組まれることになり、当然のように上原氏のシナリオの魅力についての分析・研究記事が作られた。
宇宙刑事シリーズと並行する形で、上原氏は『光速電神アルベガス』(1983年)、『ビデオ戦士レザリオン』(1984年)といったロボットアニメ、そして「戦隊」「宇宙刑事」に続く第3の路線を目指した『星雲仮面マシンマン』(1984年)でも健筆をふるった。
『宇宙刑事シャイダー』で主役候補に「円谷浩」の名が挙がったとき、上原氏は彼を主役に強く推したという。恩人のひとり・円谷一(1973年没)の息子・浩をこんどは自分がシナリオで後押ししたいという、上原氏なりの思いがそこにあった。訓練半ばで戦場に送り出された宇宙刑事シャイダー/沢村大には、パートナーの女宇宙刑事アニーがおり、2人は共に力を合わせて不思議界フーマに立ち向かっていく。上原氏は強力なアクションヒロインであるアニーに主役級のウエイトを持たせ、シャイダーとアニーの「ダブル主役」のつもりでシナリオを書いていたそうだ。
「宇宙刑事シリーズ」では、主人公の人間的成長をうながすキャラクターとして「父親」が重要な位置を示している。『ギャバン』では烈に「命を懸けて任務を果たす宇宙刑事の生き方」を身をもって教えたボイサー、『シャリバン』では幼い伊賀電に「本当の強さ」が何かを伝えた植物学者・伊賀電一郎、『シャイダー』では沢村大に「銀河宇宙にはさまざまな異星人がいる」と語った宇宙天文学者・沢村大二郎。特に沢村大二郎は上原氏が円谷一氏を想定して作ったキャラクターだといい、広い銀河宇宙に目を向けるロマンチストだった一氏を作品の中で偲んでいるかのようであった。
円谷プロ在籍時代の作品から代表的なものを選んだ待望のシナリオ集「宇宙船文庫 24年目の復讐 上原正三シナリオ傑作集」が発売された1985年、上原氏は「宇宙刑事シリーズ」の発展形といえる新番組『巨獣特捜ジャスピオン』(1985年)でメインライターを務めた。古代銀河聖書に記された魔神サタンゴースに挑む銀河の野生児ジャスピオンの活躍を描くこの作品には、上原氏の原点といえる「怪獣」ジャンルの復活と、宇宙刑事的なメタリック・ヒーローの魅力の継承という、2つの命題が与えられた。上原氏は『ウルトラマン』時代に映像化が叶わなかった「黄金に輝く不死鳥(フェニックス)」=「黄金の鳥」を、サタンゴース打倒のための重要な"鍵"といった位置づけで登場させている。
『ジャスピオン』に続き、一連の「宇宙刑事」路線(現在ではメタルヒーローと呼ばれている)の集大成を目指して作られた『時空戦士スピルバン』(1986年)は、「スーパー戦隊」や「宇宙刑事」で人気の高かったキャスト陣を再結集させて臨んでいる。上原氏は、悲劇的な過去(父ベンと姉ヘレンをワーラー帝国に誘拐され、故郷クリン星が全滅)を主人公のスピルバンとパートナー・ダイアナに与え、敵となって襲ってくる父(ドクターバイオ)と姉(ヘルバイラ)とスピルバンがどのように戦うのか、といったシリアスなキャラクタードラマを展開した。
第36話から登場するワーラーの新幹部ヨウキは人間の意思を操って秘密結社「無無無(ムムム)」を結成し、スピルバンを襲わせる。無無無メンバーがみな社会的地位の高い有名人ばかりだったり、マスメディアを利用して人々を無意識に悪の手先にしたりと、上原氏が手がける作品の中には、人間の心の奥底に潜む悪意をむき出しにするような「悪魔的」な作戦が行われることが多い。上原氏はヒーロー作品のアイデアを考える際に「ある程度時代の流れを読み、人間社会が発達していった"その先"はどうなるのかと、想像をはたらかせる」と語っていた。荒々しい暴力で地球を奪うのではなく、便利な道具を次々に与えることで人間を"堕落"させていくといった『宇宙刑事シャイダー』の不思議界フーマ・神官ポーによる作戦の数々などにも、上原氏の考えが反映されていたといえるだろう。
『スピルバン』を終えた上原氏は、高久氏がメインライターを務める『超人機メタルダー』(1987年)で第10話を執筆した後、『仮面ライダーBLACK』(1987年)に参加し、初期エピソード(第1、2、3、4、12話、劇場版第1作)を手がけて作品世界の骨子を築き上げた。久々に上原氏が東映作品に戻ってきたのは、1994年公開の劇場映画『仮面ライダーJ』。前年の『仮面ライダーZO』に続く映画版仮面ライダーのJには、巨大な敵フォッグ・マザーと対抗するべく「巨大化」を行うという特徴があった。映画はキャラクターアクションの見せ場を活かして46分とタイトにまとめられているが、上原氏は本作のノベライズ(小学館スーパークエスト文庫)にて「映画は氷山の一角のようなもので、目に見えない部分に膨大な設定や物語が埋もれている」と説明し、連続テレビシリーズなみに大ボリュームの長編小説を完成させた。この小説版『仮面ライダーJ』では「サブリミナル効果を悪用して群衆が操られる」「主人公(瀬川耕司)の親しい人が変貌し、襲いかかる」といった『スピルバン』にも通じるいくつかの要素がより洗練された状態で表現されていたり、耕司を仮面ライダーJに改造する役割を担う「地空人」やJが守るべき少女・加那(カナ)の詳細な出自が明かされたり、Jに対抗するフォッグ・ライダーが現れたり、上原氏が手がけたこれまでの特撮ヒーロー作品のまさに集大成というべき、濃密な内容の小説となった。
やがて上原氏は『ブルースワット』(1994年)で第35話、『超力戦隊オーレンジャー』(1995年)で7話分のエピソードを手がけ、さらには反戦テーマの濃厚な劇場版『超力戦隊オーレンジャー』(監督:こばやしよしあき)を執筆して特撮ファンの話題を集めた。