脚本家・上原正三氏が2020年1月2日、肝臓がんで亡くなった。82歳だった。マイナビニュースでは昨年11月4日、横浜・放送ライブラリーにて12月13日から開催(2020年2月16日まで)の企画展「スーパー戦隊レジェンドヒストリー」との連動で『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)でメインライターを務めたころの話を中心にインタビューさせていただいた。心から故人のご冥福を祈りたい。

  • 上原正三氏(2016年著者撮影)

上原氏は1937年、沖縄県生まれ。シナリオライターを志し、上京して中央大学に進んだ。卒業後、病気療養のため沖縄に戻った上原氏は、1963年に自分と同じシナリオライター志望の青年・金城哲夫氏と出会う。すでに東京で"特撮の神様"円谷英二特技監督に師事し、ベテラン脚本家・関沢新一氏のもとで修業をしていた金城氏は、英二氏が新たに設立したテレビ映画製作プロダクション「円谷プロ」第1回作品『ウルトラQ』の企画を任されていた。

1964年度芸術祭、一般公募のテレビ脚本部門に『収骨』という作品で佳作入選した上原氏は、翌年1月、受賞のため上京。そのとき金城氏の誘いを受け、空想特撮シリーズ『ウルトラQ』制作真っ只中の円谷プロを訪れている。その後、文芸企画室長である金城氏の手伝いという形で上原氏も円谷プロに入社し、『ウルトラQ』(1966年)第21話「宇宙指令M774」第24話「ゴーガの像」でシナリオライター(全国)デビューを飾った。

学生時代から「沖縄と戦争」を中心とした社会派テーマのドラマシナリオを書いてきた上原氏は、金城氏のおおらかで奇想天外な物語作りに触れて、大いに驚いたという。大人をターゲットにした社会派ドラマのシナリオでは、テレビで放送する場合にさまざまなタブーがつきまとう。しかし物語のテーマはそのままに、舞台を「SF」「怪獣」の世界に置き換えれば、送り手から受け手へと伝えたい"メッセージ"がしっかりと込められるのではないか。そう考えた上原氏は、最初の『ウルトラQ』作品として、工場廃液の影響で巨大化した怪獣クラプトンが原油を求めて暴れる「Oil S.O.S.」を執筆した。

「Oil S.O.S.」は必ず怪獣を出さなければならないという『ウルトラQ』のフォーマットにのっとりつつ、文明社会への警鐘というテーマを盛り込んだ形になった。監督候補だった円谷一氏から手厳しい"ダメ出し"を何度も経て決定稿となったこの作品だが、ロケ先の石油会社からNGが出て製作中止となった。このことは上原氏にとって相当にショックだったらしく、後年何度も「残念に思っている」と文章に記していた。

『ウルトラQ』の後、円谷プロは『ウルトラマン』『快獣ブースカ』(いずれも1966年)という2作品の企画を始動させ、空前の「怪獣ブーム」を駆け抜けるトップランナーとなった。上原氏は『ウルトラマン』ではどくろ怪獣レッドキングなど5大怪獣が暴れ回る第8話「怪獣無法地帯」と第38話「宇宙船救助命令」を手がけている上に、文芸部員として講談社『ぼくら』『たのしい幼稚園』といった雑誌のウルトラマン特集記事、フォノシート(レコード付き冊子)収録ドラマ台本なども精力的にこなした。また、『快獣ブースカ』では放送作家からシナリオライターに転身したばかりの市川森一氏と共に活躍し、全47話のうち11話(共作含む)を執筆している。

続く『ウルトラセブン』でも、上原氏は第9話「アンドロイド0指令」よりローテーション参加。特に後半エピソードにおいては、メインライターの金城氏が大型新番組『マイティジャック』の企画に忙殺されていたこともあり、市川氏、上原氏の活躍が特に目立った。

『ウルトラセブン』で上原氏が執筆し、決定稿になりながら未製作となった"幻の傑作"エピソードがある。それが「300年間の復讐」だ。"迫害されたマイノリティ(社会的少数者)"の悲しみと怒りをモチーフにしたこの作品は、沖縄出身の上原氏が持ち続けてきた社会派の重いテーマを「SF」という形に落とし込んだドラマ性の高いストーリーだったが、力作にも関わらず映像化されることは(当時)なかった。上原氏にとって「300年間の復讐」は特別な思いを込めて書いた作品であることは、シナリオ執筆に至るまでの「アイデアメモ」「ハコ書き」「シノプシス(あらすじ)」「手書き準備稿」のすべてを後々まで大切に保管しているところからもうかがえるだろう。

また、『ウルトラセブン』終盤を盛り上げる意味で、『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』に登場した怪獣と宇宙人を大挙登場させ、東京のど真ん中で大暴れさせる大胆なアイデアの超娯楽編「宇宙人15+怪獣35」という未製作シナリオ(川崎高=実相寺昭雄監督との共作)も存在している。

撮影が検討される前に、予算がかかりすぎるという理由から見送られた作品ではあるが、東京が怪獣と宇宙人に蹂躙されたそのとき、天空から黄金に輝く正義の怪獣ゴードが現れてセブンを救う、という展開には胸躍るものがある。このゴードは上原氏が『ウルトラマン』のころに書いた未製作シナリオ「怪獣用心棒」のゴルダー(初期案ではスパード)の流れを汲む「黄金に輝く"不死鳥(フェニックス)"」のイメージで共通しているが、いずれも未製作になったのは残念というしかない。不死鳥というモチーフは、上原氏が抱く"希望"の象徴ということができ、後の『柔道一直線』(1969年)では主人公・一条直也の必殺技名になり、『帰ってきたウルトラマン』(1971年)では死から奇跡的に甦った郷秀樹をMATの加藤隊長が「フェニックスのよう」と称している。