AppleにはHomePodを何が何でも普及させるという動機に欠ける部分がある。もしかしたら、「家」という場所に関して、Appleは製品単位での視点や戦略を持ち合わせていないかもしれない。これについてCook氏は次のように述べている。
「ホームビジネスはHomePodやApple TVよりも広範なものです。あらゆる人は、iPhoneやMac、iPadを家でも使っています。それら全てがSiriのアクセスポイントとなり、既に10億台と、非常に多数の製品がホーム関連の機能に対応しています。私は毎日、ホームオートメーションを利用しています。HomePodやApple Watch、iPhone、iPadがその役割を担っています」
AmazonやGoogleとの決定的な違いは、音声アシスタントデバイスの普及台数だ。現在スマートスピーカー市場拡大の裏には、値下げセールをいとわず、とにかく台数をばらまこうと必死になっているという構図がある。
対してAppleにはそうする必要がない。すでにSiri対応のデバイスが、市場に数多く出回っているからだ。HomePodの販売台数も、スマートホーム戦略に於ける貢献度の割合は、Appleにとって非常に小さいことがわかる。
Cook氏が言うよう、マーケットに存在するSiriデバイスは10億台に上る。四半期ごとに1,000万台ずつ販売されても、スマートスピーカーにSiriデバイス群が追いつかれるまでには相当な時間がかかることになるだろう。
一方で、10億台を束ねるSiriのジレンマも存在する。これらのデバイスが活発にSiriにアクセスする状況を不用意に作り出せば、これまでに体験したことがない通信容量と処理能力が必要不可欠になってくる。
AppleのSiriが他社の音声アシスタントに比べて非力だと言われる理由も、無闇な高機能化ができないほどデバイスが増えすぎていることが挙げられる。つまり、音声アシスタントのインフラ問題に最も最初に直面しているのがApple、ということなのだ。
そのため、iOS 12では、Siriの音声とは異なる一面を強調し始めている。そもそもSiriは音声アシスタントのキャラクターとしての認識も強いが、iOSの中ではSpotlight検索やユーザー行動を読み取り端末や通信、電力を最適化するためのデータ作りなどを行っている。
例えばiOS 12ではユーザーの普段の行動からアプリの機能を提案する「Siri Suggestions」や、ユーザーが画面を見ている時間や使用しているアプリを表示する「スクリーンタイム」機能が用意される。これらも乱暴にいえば、今までSiriが行ってきた分析にインターフェイスを付けただけ、とも解釈できる。
そうした処理を実現すべく、Appleは自前のプロセッサA11 Bionicのグラフィックスを内製化し、機械学習処理を毎秒6,500億回実現するニューラルエンジンを内蔵させた。
もちろんSiri向けの処理だけでなく、「Animoji」や「Face ID」といった顔認証を高速に行う役割や、ARのリアルタイム処理の実現などにも役立てられるが、機械学習処理をできるだけデバイス外に出さないような工夫を施す意味合いも、そこでは見て取れる。