小田井:王蛇は、ライアやガイの契約モンスターも引き連れて、結局3体のモンスター(ジェノサイダー)で戦いましたからね。『龍騎』のライダーの中でも特別感がありました。
萩野:今でもよく覚えています。初めて浅倉が登場する回(第17話)の最後のシーンで、カメラのほうに振り返って「イライラするんだよ……。こんなところにいると」ってセリフを言ったんです。その後、白倉さんから「あのシーンで視聴者からの苦情が殺到した」と言われました(笑)。
小田井:すごいね!
萩野:なんでも「なんていう悪人ヅラを出したんだ!」とか言われたそうなんです。「何をやらせるんだ!」というお叱りもあったけど、あの時点ではまだ何もやってなかったですから。これからですって(笑)。
小田井:自分のキャラクターというのは、自分が演じるので客観視できず、よくわからないところがあるんですけれど、浅倉が登場したことで、やっと『龍騎』の世界がはっきりしてきたなと思いました。最初のころは「仮面ライダー同士が殺し合う」という凄い設定に対して、俺たちのやっていることってヌルくないかな……なんて思っていたんです。だって、北岡は最終的に、ライダーを誰一人倒していませんからね。あれだけ派手な戦いをしているのに。だから浅倉が出てきて、すべてをかき乱していったとき、ああ、これだよね!って。急にピリッとした空気になりましたよ。そりゃあ、子どもは怖がるかもしれないけれど、でも怖がってくれないとね。だってライダーが殺し合ってるわけだから。まあ、いわゆる"悪い"という部分をみんな浅倉が背負ってくれたって形ですよね。
萩野:そう。浅倉はホントはいい人なんです(笑)。
小田井:あと『龍騎』の独特な世界観を語る上では、初期の2本だけに出てきた仮面ライダーシザース/須藤雅史(演:木村剛)も重要でしたね。シザースがいてくれたおかげで「今度の仮面ライダーは、失敗するとモンスターに食われて死ぬんだな」ということがはっきりわかりましたから。それと、仮面ライダーインペラー/佐野満(演:日向崇)もすごく印象に残っています。
萩野:最後のほうに出てきたライダーだよね。
小田井:インペラーは、その最期が哀しかった。ミラーワールドに閉じ込められて現実世界に戻ることができなくなって、橋の上にいる恋人に手を伸ばしても届かず、消滅してしまうってやつ。
萩野:涼平くんの話を聞いていると、だんだん思い出してきたなあ。懐かしい。
小田井:『龍騎』のライダーには、こういう(悲劇的な)一面もあるよね、という部分を示してくれた。要所要所のエピソードで、誰かがきちんとストーリーをシメてくれていたんだなあって思います。
――浅倉は人の命を奪うことに何の抵抗もない、徹頭徹尾凶悪そのもののキャラクターですが、時折、ほんのわずかに人間的な部分を覗かせることがあって、それが非常に印象に残りました。第42話で真司をバカにする北岡の言葉に乗って、ニヤリとしながら手をあげたりするところなんて、特に。
萩野:ああ、やりましたね~。
小田井:浅倉はギャグパートにも意外と参加していることがあるんだよね。
萩野:後半にね、ちょっとだけですよ。
小田井:演出的なことなんですけれど、そういうシーンもあるから、後半から浅倉はちょっとかわいらしさも出てくるという(笑)。
萩野:なんせ、とにかく苦情の多かったキャラクターですからね(笑)。
小田井:浅倉が初登場回からとんでもない悪さをやりまくったもんですから、僕(北岡)中心のエピソードでわりと「平和」なお話を作らざるを得なくなったんです。第30話で元秘書のめぐみ(演:森下千里)とのやりとりで、僕が頭からスパゲッティを被ったりしたやつ(笑)。
萩野:当時、東映のパーティに出席したとき、偉い方から「いいんだけどさあ、子ども番組なんだからもうちょっと考えて芝居しろよ」って言われて、正直どうしたらいいんだ?って悩みました。それで白倉さんに相談したら「今のまんまでいい!」って言われて、それ以来あまり気にせず浅倉のスタイルを貫き通しました。
小田井:さすがは白倉さん!
萩野:あの当時は、浅倉があまりに恐いということで、親子連れに会ったときでも、お母さんは「ほら、一緒に写真撮ってもらいなさい」なんて言うんですけれど、子どもはかたくなに近寄ろうとしなかったですね。絶対ヤダ!って。まあ、ヒーローじゃないゆえの寂しさというのを感じました。
小田井:萩野くんの横で、僕もそういう光景をいっぱい見てきました(笑)。
萩野:何人かに1人くらいは、王蛇が好きだって子もいるんですけれどね。そんな子でも、実際に浅倉本人を目の前にしたら、近くには寄りたくないっていうんです。何をされるかわからない、とか思うんでしょうね(笑)。