Appleが「人々にとって最も身近なデバイス」として位置づけるApple Watchは、常に手首にあるデバイスとしてiPhone以上に我々の生活に密着した存在である。そのApple Watchは2017年にリリースしたSeries 3でセルラーモデルを追加し、前年同期比で60%の売り上げ増と大幅な成長を記録した。
あくまでiPhoneとペアリングして利用する「iPhoneのアクセサリ」という位置づけは変わらないが、iPhone以上に人々とともに過ごす時間が長いデバイスを作り出せたことは、Appleにとって非常に大きな意味合いを持つことになる。
WWDC 2018では、最新版ソフトウェア「watchOS 5」のリリースをアナウンスした。このバージョンによってApple Watchは、より大きな遂げるであろうが、その理由を今回は説明していこう。
Apple Watchは、タッチディスプレイとデュアルコアプロセッサを搭載する汎用型のウェアラブルデバイスとして登場した。しかしその最初のマーケティングのターゲットは、ウェアラブルデバイスの中で最も注目されるカテゴリとなっていたフィットネストラッカーであった。
価格が安く製品コンセプトが明快で、最も身近に手に取りやすいウェアラブルデバイスからシェアを奪うためにAppleが仕掛けてきたことは、さほど特別なことではなかった。フィットネストラッカーと比較して3倍程度に設定した価格で、そこから大幅プライスダインはしなかったわけだが、デジタル的な発展だけでなく、ファッション的な発展という側面を持たせて進化させるという方針をとったのだった。
デジタル面ではプロセッサの向上やGPSの内蔵、セルラー搭載、音楽再生機能の強化などといった施策を採り、フィットネスのお供として重要な位置を占める音楽再生も、iPhoneに頼らず実現した。またファッション面では、毎シーズン新色のバンドをリリースし、本体はそのままでも時計の雰囲気を変えられたり、コーディネートをする楽しみを提供した。これらは、フィットネストラッカーでは実現できていなかったことだ。
フィットネストラッカーも高付加価値化するにつれて、結果的にApple Watchのようなスマートウォッチのスタイルへと近づいてきた。すなわち、Apple Watchの取り組みは正鵠を射たものであって、その優位性のみが残る結果となったのである。
今回watchOS 5では、ヨガやハイキングといった新しいワークアウトを追加したり、定番となっている屋外ランニングにペースやケイデンスの表示も用意した。ラボでの膨大な時間をかけたスポーツに関するアルゴリズム開発と、医療研究の現場でも認められる精度の心拍計を武器に、その価値をより高めようとしている。
そうしたフィットネス分野での確固たる地位を築きながら、Apple Watchの「汎用性」をさらなる付加価値として獲得していくために「新しい領域」へとコマを進めるのが、今回のwatchOS 5の役割だ。