TSMCは、7FF+を2018年後半にAvailableになる(恐らくRisk Productionが始められるという意味だと思われる)と説明している。しかし、7FF+には露光装置と、これにまつわる諸々が問題として立ちふさがっている。
露光装置そのものは、いまのところオランダのASMLが唯一の装置メーカーになってしまっており、そのASLMは7/5nm世代向け露光装置「NXE:3400B」を2017年中に出荷したはずである(リリースはないが)。
光源出力は150Wあたりまで引き上げられており、125枚/時のウェハー処理能力があるとされている。前述した通り、ArF+液浸だと4回の露光とエッチングが必要なのに、EUVだと1回で済むから、ArF+液浸換算で言えば500枚/時の処理能力相当になるので量産には問題ないという話なのだが、問題はこれが本当に実現できるかがまだ分からないことだ。
これはTSMCに限った話ではないが、EUVの光源出力が上がるというのは、内部のミラー類の劣化、あるいはEUVマスクの劣化が激しくなりやすいということでもある。本格量産が始まるまでArF+液浸と同等の量産が可能かどうか分からない部分がまだ残されている。
問題がなければRisk Productionが2018年後半だから、本格量産が2019年後半に開始できると思われるが、もし何かあった場合は2020年以降にずれ込むことになる。Risk Productionが始まるとこのあたりで情報が出てくるだろう。
5nmの動向とメインストリーム向けの低コストプロセス - TSMC
最後が5nmである。この5nm世代はFinFETを利用する最後の世代(その次はGAA:Gate All Around構造になると目されている)だが、同社は5nm世代向けの建物の建設も行っており、2019年第2四半期にRisk Productionを開始するとしている(Photo26)。
ラフに言えばTSMCの5nmとIntelの7nmはほぼ同じCPPなわけで、Intelがもたつくようであればこの世代でTSMCがIntelを完全にキャッチアップできる可能性もある。この世代ではもはやArF+液浸はなくEUVのみとなるため、7FF+でどこまでEUVを安定して製造できるようになるかが鍵になる。
さて、ついでにメインストリーム向けもしておきたい。16FF+の低コスト版が16FFCである。これは製造プロセスをやや簡素化するほか、若干ではあるがOptical Shrink(一説によれば数%のオーダーらしい)を掛けてコストを下げたプロセスである。動作周波数は少し下がるが、その分製造原価も下がるため、メインストリーム向けのモバイルプロセッサに多用されている。
この16FFCの低コスト版として、2017年3月に発表されたのが12FFCである。プロセスは一切いじらないのだが、ライブラリとして次の2つが提供される。
- 16FFCと比較して動作速度10%改善、もしくは消費電力を30%削減可能な6 Track Standard Cell Library
- Dual Pitch BEOL(Back End of Line:トランジスタの上の配線層。このPitchを従来の倍にした)とトランジスタの性能アップにより、動作速度10%改善、もしくは消費電力の20%削減に加え、10%のエリアサイズ削減が可能なTurbo Cell Library
12FFCは、Intelの10GP/10HPMからの避難先として多くの顧客に採用されており、2017年第2四半期から量産に入っている。恐らく2018年第1四半期以降にはこれを採用した製品が市場投入されると思われる。
最後が7FFCで、これは名前の通り7FFの低コスト版である。ただ低コストというからには、ArF+液浸の7FFではなく、EUVを使った7FF+の低コスト版になると思われるが、こちらは逆にEUVのラインが当面逼迫することを考えると、早くて2020年以降の量産開始になるだろう。ただそこまで待てない顧客のために7FFの低コスト版が、あるいは用意されるかもしれない。