データ活用の難しさ
革新的なデバイスのTYPE-Rだが、課題がないわけではない。個人差をどう捉えるかという問題が横たわるからだ。
たとえば、ワールドチームに所属する某選手。彼の動きをTYPE-Rでセンシングしたことがある。加地氏は綺麗なデータが上がって来ると思ったが、意外にも左右差が大きかったことに驚いたという。一時の偶然かとも思ったが、何度やっても結果は同じだった。
左右差は怪我につながる可能性もあるので、基本的にはよくない。しかし、何度やっても同じであり、過去に怪我がないならば、それは彼の体の特徴であると、選手のコーチを務めるニール・ヘンダーソン氏は、今のところ結論付けている。
TYPE-Rの開発の前提として、コーチの教えが経験に基づいた正しいものとは限らないという仮定から入っており、上記のように、時に解釈に議論の余地を残すこともあるのだ。
このあたり、手を打っていないわけではなく、スポーツ科学者、運動生理学者、コーチ、理学療法士らを集めた研究機関IMAを設立しており、研究者らのリサーチを通して科学的な検証を行っていくという。
もうひとつ、データ活用の難しさにも課題は残る。TYPE-Rに熟知したコーチが選手個別のデータを一定期間見ることで、その人の"癖"を発見することはできる。しかし、広く普及を図ろうとした場合、誰もが課題を見つけ、次につなげられるようにする"わかりやすさ"は求められる。"生"に近いデータではなく、アルゴリズムでクラスタリングするなど加工して、見やすくしたデータ表示は必要になっていく。年内予定の国内発売までには、大きく改善したものにするというが、その完成度は気になるところだ。
いずれにせよ、現時点でも、DSSを始めとした新たな指標があり、ペダリングのスムーズさや足の動きの左右差の確認など、かつてない機能を自転車競技のトレーニングに持ち込むのがTYPE-Rだ。TYPE-Rは先々、他の競技へも展開を図っていくが、そのためには、自転車競技において、ビジネス的にもある程度の成功を収める必要があるだろう。
デバイスの革新性は売れるための一要件に過ぎない。デバイスの存在を市場に認知してもらう必要がある。ビジネスにならなければ、消えてしまいかねない。加地氏はビジネスとしてどう成り立たせようと考えているのか。