Beats Studio3 Wirelessは、独自にノイズキャンセリング機能を搭載しているようで、W1チップがその処理に役立てられているとは記述されていない。あくまで長時間再生とペアリングに関して、W1チップがその役割を果たしている点で、AirPodsや他のBeats製品と同じだ。
現状でも、再生時間やペアリングの面でAppleのワイヤレスオーディオ製品の競争力の源泉はW1チップにあるといっても良いだろう。もしワイヤレスオーディを進化させていくのであれば、このW1チップの進化は大きな役割を占めることになる。例えばBeats Studio3 Wirelessが搭載するノイズキャンセリング機能をW1チップの次世代版が実現できるようになれば、既存のパッケージングの中で、バッテリー効率とノイズキャンセル機能を両立させることができるようになるかもしれない。AirPodsはイヤーピース自体の遮音性が低いため、どれだけ意味があるか分からないが、例えばカナル型のイヤーピースとなっているBeatsXは、ノイズキャンセリング機能を搭載しやすい製品と言える。
また、現在は音楽を聴いたり、Siriや通話用に比較的低音質での音声入力を行うために使われているBluetoothオーディオ製品だが、これを録音機材として利用するアイディアにも期待している。
特にiPhoneでビデオを撮影する機会が増えており、例えばAirPodsに搭載されている左右のマイクで、環境音を録音したり、撮影しながらナレーションをクリアに録音したり、耳元でささやくようなバイノーラル録音を実現する、といったレコーディングマイクとしての活用は、ぜひ実現して欲しい機能だ。
9月12日のイベントでAppleが新型ワイヤレスオーディオ製品をリリースするかどうかは不透明だが、Appleが切り拓いた完全ワイヤレスオーディオ市場を、どのようにメンテナンスしていくのか、注目していきたい。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura