UlyssesはMacとiOS向けにしかアプリを提供していないため、このアプリのユーザーがAndroidとWindowsに移行することは、今現在はあり得ない。また、Androidパソコンというものが存在しない以上、Android版に踏み込むことはWindows版に取り組むことに直結するため、こちらも小規模開発者にとっては大きな負担となる。Ulyssesユーザーは、引き続き、MacとiPhone/iPadで、テキストを書いていくことになるはずだ。

ただ、プラットフォームやサービスを利用するために提供されているようなアプリの場合、サブスクリプションモデルへの移行は、前述のiPhoneからAndroidへの移行のハードルは下げることになるはずだ。

例えばEvernoteやDropbox、Box、OneDriveなどは、クラウドを前提にサービスを提供しており、月額、あるいは年額のサブスクリプションモデルとなっている。加えてパソコンやスマートフォンの全てのプラットホームをサポートし、ウェブでのアクセスも可能だ。つまりこれらのサービスを使う限りは、iPhoneだろうがAndroidだろうが、どちらでも良くなる。

コミュニケーション系のアプリも、AppleのiMessage以外は、どちらのプラットホームでも困らない。もちろん現在なら、Instagramユーザーも、安心してAndroidスマートフォンを利用できる。

NetflixやHulu、Amazonなどのビデオ配信アプリ、そしてSpotifyやApple Musicを含む音楽ストリーミングサービスといった、エンターテインメント分野も、購読型サービスであり、いずれのプラットホームでも楽めるようになっている。

サブスクリプションモデルを採用する理由は様々だが、App Storeが抱える有料アプリも、ビジネスモデルとの葛藤でサブスクリプションモデルへ移行し、他のプラットホーム向けのビジネスを展開し始めれば、アプリは、必ずしもiPhoneを使い続ける理由ではなくなってしまうことになる。

ユーザー数では優位に立てないAppleが、今後もApp Storeの優位性をいかに打ち出していくのか。iOS 11ではApp Storeのデザイン変更に加え、機械学習や拡張現実のAPIの充実を図り、最新OSが動作するモデルを引き続き幅広く確保している。

そして、やはり、魅力的なハードウェア、つまり新型iPhoneを登場させることが、重要になっていくのだろう。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura