App Storeで成功しているアプリ開発者にも、継続的にアプリを育てていく上での葛藤があるのだが、この件について見ていこう。
2016年のWWDCで、その年の優秀なアプリを表彰するApple Design Awardを受賞した「Ulysses」は、MacとiOS向けのMarkdown対応エディタアプリだ。Ulyssesは2017年8月に、これまでの買い取り制の有料アプリをやめ、アプリを無料化した上で年間4,400円、月額550円のサブスクリプションモデルを採用した。その理由について、Ulyssesは、現在のApp Storeの有料アプリのビジネスモデルにそぐわなくなった点を挙げる。
筆者もUlyssesのユーザーで、Mac向け、iOS向けそれぞれのアプリを合計7,000円弱で購入した。有料アプリを購入したユーザーに対して開発者は、そのアプリを使い続ける限り、バージョンアップを無料で提供することになる。ユーザーは将来的なバージョンアップ料金も含めて、支払った、ということになるのだ。
開発者からすれば、有料アプリの料金はそれまで開発してきたコストをまかなうためのものであり、そこから将来のバージョンアップのコストを捻出することはできない。そのため、バージョンアップでは新規顧客を獲得しなければならなくなる。これはすなわち、既存ユーザーのためにバージョンアップ機能を練り込むことが難しくなることを意味している。
その問題を手っ取り早く解決する手段として出てきたのが、最近App Storeでよく見かける「○○ 2」という別のアプリとして新たに販売するという方法だ。これはつまり、既存ユーザーからもバージョンアップの際に、再度有料アプリとして購入してもらうという手法だ。
ただ、ここでもUlyssesの場合は問題を抱える。MacとiOS双方でアプリを販売し、データをiCloudで同期しているため、ユーザーが例えばMac版だけをバージョンアップすると、データでバージョンの混在が生じ、結局古いバージョンのデータ使用を引きずらざるを得なくなる。
そこでサブスクリプションモデルへ移行し、素早くバージョンアップしてもらいつつ、既存ユーザーのための開発を続ける体制を整えることになったというわけだ。