だが、新たなプロジェクト体制での建設コストの見積もりにおいては、コストが大幅に増大。当初想定した作業効率改善が進まず、作業効率が低下するとの判断のほか、物量の増加、直接人員および間接人員の増加などの労務費で37億ドル、設備の購入価格上昇や下請け業者への支払い増加で調達コストが18億ドル、工事総額に対して一定率で積み増す予備費として6億ドルの合計61億ドルが増加。さらに、これらのコスト見積もりに必要な物量算定に時間を要することもマイナス要素となっている。

この結果、S&W買収に伴うのれん計上額は6253億円に達し、ウェスチングハウスによる既存ののれん残高の872億円を加えて、7125億円ののれん減損を計上することになった。

東芝の対応策

東芝は原子力事業における対応策として、原子力事業に対するリスク管理、モニタリング強化を目的に、綱川社長を委員長とする原子力事業監視強化委員会を新設するとともに、原子力事業を社長直轄組織とし、直接リスク管理を行う体制へと移行。

最大の課題となっている米国AP1000プロジェクトにおいて、東芝の原子力事業統括部の東芝プロジェクト監視チームや、ウェスチングハウスの米国AP1000プロジェクト監督委員会などを通じて、プロジェクトの進捗や、コストを管理。是正対策を実施するという。

そして、原子力事業における損失発生に対する経営責任として、綱川社長が、月額基本報酬の返上率を60%から90%に引き上げたほか、取締役代表執行役会長の志賀重範氏が取締役および代表執行役を辞任。エネルギーシステムソリューションカンパニー社長のダニー・ロデリック氏が、同社長および東芝執行役上席 常務待遇を解嘱。原子力事業部長で執行役常務の畠澤守氏が、月額基本報酬の返上率を30%から60%に引き上げた。その他執行役も返上率を一律10%引き上げる。

新設プラントのリスクを軽減する方向

東芝は、今後の原子力事業は、国内においては、再稼働、メンテナンス、廃炉を中心に展開。一方で、海外は、高収益かつ安定したビジネスである燃料・サービスの提供は維持し、新設プラントについては、土木建築部分のリスクは負担せず、機器供給やエンジニアリングなどに特化することになる。

2016年度の原子力事業の見通しでは、燃料・サービス事業の売上高は5065億円で、同事業全体の58%を占める。また、営業利益は387億円。とくに、サービス事業は、10%を超える営業利益率を計上している。「約100基の据え付け実績をベースに、しっかりとサービスで事業を確保していく」と綱川社長は語る。

一方で、新規プラントは、5年連続で赤字を計上する見込みであり、S&Wの買収によって、2016年度見通しでは売上高が2994億円にまで膨れ上がる土木建築は、「今後は受注しない方向にもっていく」(綱川社長)ことになる。

中国で受注している三門、海陽の4基の原子力プロジェクトは土木建築が含まれていないため、そのまま継続するほか、インドでの6基の受注を目指すプロジェクトでは、土木建築のリスクを負担せず、機器供給やエンジニアリングなどに特化。英国で3基の受注を目指す「NuGen(Moorsideプロジェクト)でも、土木建設リスクは負わない前提で活動を検討する。