だが、2011年3月11日の福島第一原発の事故以降、原子力事業の勢いにはブレーキがかかる。それでも東芝は、2015年11月の会見では、「全世界では約400基以上の建設計画があり、2029年度までに64基の受注を目指す」(当時のウェスチングハウスのダニー・ロデリック会長)と、強気の姿勢は崩さないままだった。
実はこのときに、ウェスチングハウスののれん減損が、2012~13年度において、1156億円にのぼることが明らかになり、これを減損することを発表した。東芝では、「減損テストの結果、事業の公正価値が帳簿価額を上回っていたため、のれんの減損は認識されなかった」と説明したが、この時点で東芝の認識の甘さが露呈したともいえる。
いや、それどころか、これが東芝の隠ぺい体質を象徴するものであると指摘する声もあったほどだ。
実質的な評価価格を上回る買収をもとにしたウェスチングハウスののれん減損は、東芝の財務諸表を痛めることになるのは明らか。米国会計基準を採用している東芝は、これを先送りにすることで、財務諸表を良化させていたともみられるからだ。
ちなみに、2006年度以降のウェスチングハウスの買収後の業績を公開したのはこの時が初めてであり、それまではアナリストなどの要請があっても非公開の姿勢を続けていた。
見えてきた「落とし穴」の正体
しかし、ウェスチングハウス買収を発端とした「落とし穴」はもっと深かった。米国の建設プロジェクトにおける課題が噴出。それに伴って買収したS&Wが持つ財務的な問題により、東芝はさらに深い穴に落ちていった。
今回の会見では、綱川社長が、「原子力事業における損失発生の概要と対応策」として、買収に至る経緯や、問題となった米国におけるAP1000建設プロジェクトの概要、そして、今後の対応策などについて説明した。
綱川社長が言及したように、東芝が、原子力事業でのれん減損を計上した背景には、米国で受注した2サイト4基のAP1000建設プロジェクトが大きく影響している。