この2サイトの契約は、いずれも2008年春に結ばれたものであり、米国内では約30年ぶりとなる原発の新規建設として注目を集めたプロジェクトであった。
このプロジェクトは、ウェスチングハウスが原子炉、タービン系の設備を担当。設計、機器、試運転などを担い、これを東芝が親会社として保証提供するという内容であった。また、建設や土木、ヤード設備などはS&Wが担当。これを、のちにCB&Iが買収するShawが親会社保証を提供。ウェスチングハウスとS&Wがコンソーシアムを組んで、プラント建設を一括で受注するという仕組みとなっていた。
だが、航空機追突対策による設計変更や、追加安全対策の実施、許認可審査のやり直しなどにより、工事が遅延。さらに、これを発端として、コスト負担の分担や納期変更に向けた協議がまとまらず、顧客であるGeorgia Power Company(米Southern電力の100%子会社)との訴訟。South Carolina Electric & Gas Company(米SCANA電力の子会社)との訴訟懸念が発生。「これを解決するために、早期にプロジェクト完成に注力できる体制構築を目指した。
加えて、コスト増や納期延長による損害賠償請求の回避も目指した」(東芝・綱川社長)ことを理由に、S&W(現WECTEC)を買収した。当時は、顧客だけでなく、パートナーであるCB&Iからもコスト負担に関する訴訟懸念があったのだ。綱川社長は、「C&Wの買収によって、30%のコスト改善が図ると見込んだ」というが、これも達成できなかったことを悔やむ。
東芝では、この買収とともに、関係当事者との和解案を提示。クロージング時点まで当事者間の相互のクレームをリリースし、両電力会社からの契約金額の増額と完工期日の延期や、連接期間中の裁判によらない紛争解決策の導入を進め、同時に、原子力発電所の建設工事に関する知見と経験を持つ米Fluorと工事サービス契約を結び、工事を委託することで建設工事の完遂を目指した。
しかし、S&W買収後に、買収時には認識されていなかったコスト見積もりの必要性が判明した。東芝は、これらを示す詳細見積もりを、S&Wの買収後に入手。工事作業効率性の想定にもギャップがあることも買収後にわかったのだ。
会見では、記者から「S&Wの親会社であったCB&Iに騙されたということなのか」という質問が飛んだが、「それについてはこの場では答えられない」と言葉を濁した。同社では、「CB&Iは上場企業であり、しっかり監査も受けた諸表であり、それを信じて判断をした」と説明する。買収後に重大な懸念要素を知ったことは東芝の脇の甘さを示すものだが、騙されたという意識が関係者の間にあったことは容易に想定できる。
2015年10月にS&Wの買収を取締役会で承認。2015年末に、S&Wの買収が完了し、2016年1月からは新体制での工事が開始された。それ以降、プロジェクトコストの見積もりを改めて行うなど、プロジェクトは新たな局面を迎えたが、その一方で、東芝は、買収価格の調整として、運転資本調整額をS&Wの親会社であったCB&Iに請求。しかし、両社の見解に差があり、協議を行ったものの整わず、訴訟に至ることになった。現在、CB&Iの提訴は棄却されているが上訴中であり、第三者会計士による運転資本額の評価手続きが進行中だ。これも2016年度内には解決を想定していたが、2017年度に持ち越すことになっている。