2017年2月14日に東芝が発表した原子力事業におけるのれん減損は、7125億円と大きなものとなった。これにより、2016年度通期(2016年4月~2017年3月)の営業損益は4100億円の赤字、最終損益も3900億円の赤字になるとの見通しを発表した。株主資本はマイナス1500億円となり、債務超過の事態に陥る。
東芝の綱川智社長は、「米国の4基の原発を受注したことが、今回の減損のきっかけである」と語る一方、ウェスチングハウスの買収についても、「いまの数字を見ると、その判断は正しいとは言いにくい」と悔やしさを滲ませる。そして、2015年末に完了したS&Wの買収は、東芝の経営の屋台骨を揺るがす結果になった。
将来の成長を担うはずだった原子力事業は、東芝を「解体」に向かわせる引き金になってしまうのだろうか。
どうしても手に入れたかったウェスチングハウス
東芝がウェスチングハウスを買収したのは2006年のことだ。当時の社長は、西田厚聰氏。追加出資を含めたウェスチングハウス買収に伴う投資は6600億円にも達している。これは、その当時、市場からは、その半分でも高いと言われる投資規模だった。それにも関わらず、東芝が買収に踏み切ったのは、原子力を軸とした社会インフラ事業を成長戦略に掲げ、売上高で2桁成長という意欲的な成長を計画していたことが見逃せない。西田氏の後任に、原子力事業出身の佐々木則夫氏を据えたことも、それを強く感じさせた。
佐々木氏が社長に就任後、2009年8月に初めて発表した東芝の中期経営計画では、「原子力事業のさらなる強化」を社会インフラ事業グループの基本戦略のトップ項目に掲げ、2015年までに、全世界で39基の受注を見込む方針を示し、同事業だけで1兆円の売上高を目標に掲げていた。
当時の資料では、米国では32基以上の新設計画があり、中国では50基以上の新設計画があること、そして、日本でも12基の原発計画があるとしており、旺盛な原子力発電所の建設計画が、東芝の業績を引き上げるものとみられていた。日本の政府も、2006年に原子力立国計画を発表するなど、原子力事業を後押しする姿勢があっただけに、東芝にとっては、ウェスチングハウスは、今後の成長に向けて、なんとしてでも手に入れたい会社のひとつだったといえる。