これは、今後日本で義務教育にも導入されるプログラミングについても同じことが言える。プログラミングができるようになること、プログラマーになることが目的ではなく、プログラミングへの理解や、共通言語として身につけることの方が重要だからだ。

石井氏は、今のままプログラミングを導入しても、「多くの学校のパソコンの授業のように、つまらない、嫌いな教科になってしまうのではないか」と危惧している。プログラミングについても、日本語(国語)、英語と同じような言語という認識を作ることから始めるべき、との見解を示しているのだ。

AppleはSwiftをオープンソース化し、先述のiPadで学べる「Swift Playgrounds」をリリースした。SwiftについてAppleのソフトウェアエンジニアリングを担当する上級副社長、クレイグ・フェデリギ氏に話を聞くと、「モダンで簡単に学べる言語として作っている」教育市場も意識している」と説明する。

STEMの頭文字の「T」はテクノロジーを指し、プログラミングを含んでいるが、SwiftとSTEM教育を結びつけることは比較的容易だ。例えば、Swiftには、ゲーム開発で活用できる物理エンジンなどが備わっている。これを呼び出すことで、物理で学ぶ加速度や重力といった課題を、自分で数字を変化させながら、画面の中で直ちに「何が起きるか」を再現できる。数学の図形描画や関数のグラフも、すぐに描かせることができるだろう。こうしたアプローチは、テクノロジーを「コンピュータの授業」以外で活用する方法を拡げてくれることになり、結果としてコンピュータの習熟度も高まっていくことになる。

前述の例ではテクノロジーを他の理系学習に活かす、というパターンを挙げたが、STEM全般、そこで学んだことを他のものに適用することは、世の中の習いにより近い出来事だと思う。

Appleは「Swift Playgrounds」向けの初期のSwift教材には取り組んでいるが、個別の教材を作っていくわけではないだろう。教育者やアプリ開発者が、どのようなアイディアを用意するか、Apple自身も期待している。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura