米国のテクノロジーメディア「Recode」では、トランプ氏が開催したテクノロジーサミットの内容について触れている。その中でAppleのティム・クック氏とFacebookのシェリル・サンドバーグ氏が言及したのが「STEM」であった。

STEMとは、Science、Technology、Engineering、Mathの頭文字を取った教育に関するキーワードで、非常に簡単に言えば、理系教育の強化を目指したものだ。米国で1990年代から喧伝されるようになり、2006年のブッシュ大統領の一般教書演説では、米国の競争力を高める目的で、教育投資が政策に盛り込まれた。

ブッシュ大統領は共和党であり、トランプ氏も共和党候補であることから、党内からSTEM教育に関してトランプ氏に進言があったとしても違和感はなく、強いアメリカを実現するためのピースであると考えて差し支えない。

しかしSTEM教育の強化は、今回の大統領選挙キャンペーンにおいて、ヒラリー・クリントン氏が掲げてきたのであり、トランプ氏にとっては面白くないテーマ、と感じたかもしれない。そう考えるもう1つの理由は、移民政策とSTEMの結びつきだ。STEM分野の高等教育を受けた人材に対してビザを積極的に与える「STEM Jobs」は、2012年に法案化されている。米国における多様性の確保と競争力の向上を両立させる戦略で、世界的に不足が見込まれるSTEM人材を米国に積極的に呼び込んでいこうというアイディアがあるのだ。

この点も、トランプ氏の米国内での雇用創出と反する考え方であり、おそらくトランプ氏は乗り気ではないだろう。だったら国内のSTEM教育への投資を強化せよ、という話になってくるわけで、クック氏のSTEM教育への指摘は、非常に戦略的なものだった、と指摘できよう。