これと、Suica対応は、また別の話である。
FeliCaを搭載した日本向けのiPhoneとApple Watchで、多くの人々が期待していたのがモバイルSuica対応だ。すなわち、iPhoneやApple Watchで、JR東日本をはじめとした鉄道やバスでの利用を実現することだ。
AppleはJR東日本と緊密に連携を取り、既存のSuicaカードと同じような改札通過の体験を、iPhoneとApple Watchで実現した。しかも、Apple Payにとっては、Suica専用の特別なモード「エクスプレスカード」も用意された。エクスプレスカードは、複数のSuicaをiPhoneやApple Watchに追加した場合、1枚だけを選ぶことができる。これに指定されたSuicaは、iPhoneでの指紋認証や、Apple Watchでのサイドボタンのダブルクリックなしで、改札通過や決済を行える。
これにより、従前のスピード感を損なわず、Apple PayでのSuicaサービスを実現できるようになった。利便性を優先し、Apple Payのセキュリティ機能上の原則だった指紋認証を、省略できるようにしたのだ。だからといってSuicaのセキュリティが著しく損なわれるわけではない。もしiPhoneを落としても、「iPhoneを探す」アプリやiCloud.comから遠隔でApple Payサービスを停止し、別のiPhoneで元の定期券やチャージ残高を復元できる。この点は、プラスティックのカード以上のセキュリティ機能を備えたことになる。
JR東日本エリアだけでも、Suicaの1日のトランザクション数は、おそらく、現在の全世界でのApple Pay利用を凌駕するだろう。その一部がApple Payを経由することになれば、利用数の大幅な向上は間違いない。JR東日本とAppleとの間での提携内容については明らかにされていないが、都度のSuica決済でAppleへの手数料が発生しなかったとしても、チャージで利用されるApple Payの手数料は、非常に大きなものになるだろう。