新世代のiPadとして非常に魅力的な製品となった9.7インチiPad Pro。AppleはPCの代替というテーマを、このデバイスに託し、6億台とも言われる5年以上古いPCからの買替え需要を、低迷を続けているiPadの販売へのテコ入れに結びつけようとしている。

スピーカーシステムも12.9インチiPad Proと同じ仕様になった

筆者の感覚で行けば、仕事時間の5割以上は、MacからiPad Pro移行できるという感触をつかむことができた。UlyssesというiCloudとMarkDownに対応したテキストエディタ、KeynoteとPowerPoint、iMovie、Adobe Lightroomといったアプリ群は、日常的な仕事を、iPadでのワークフローへ置き換えられることを示してくれた。

PCの代替で求められることは、いささかつまらない話ではあるが、何か新しいことができるようになるから評価されるわけではない。それまでやってきたことを、できればアプリの名前と操作性まで同じままで、移行できるかどうかが重要なのだ。

その点で、Mac向けアプリをリリースしているデベロッパーはiPhone・iPadにもアプリを開発しており、この条件に当てはまることが多い。Appleのアプリはもちろん、Microsoft Officeも、Word、Excel、PowerPointとしてiPadで利用できる。

Adobeは、Mac・PC向けの機能を網羅したアプリとしてはリリースされておらず、iPad ProがAdobe Creative Cloudでの創作に利用するマシンとはならない。ただ、Apple Pencilやカメラの活用など、新たな創作の「きっかけ」を与えるアプリに注力し、「必要な道具」として新しい価値を提供しようとしている。

タブレットへの対応に積極的なアプリと、それを活用しているユーザーは、iPad Proの実力を最大限に利用できるだろう。ただし、古いPCで、そのPCが最新だったころに導入した業務ソフトを使っている人々にとっては、iPad ProはまだPCの代替にはなり得ない。

AppleがPCの代替を狙う本気度は、こうした古いソフトウェアをいかに「iPad化」するかにかかっていることもまた、iPad Proを使っていく上で気づいたことだ。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura