Wi-Fiアシスト機能を導入したAppleは、ユーザーがインターネット体験やコンテンツに集中できるようにするためと主張していた。

通信が不安定な場合であっても、いちいち今見ているアプリを閉じて、設定アプリを開いてWi-Fiをつなぎ直したり、コントロールセンターを開いてWi-Fiをオフにしなくても良いように、という配慮があったのだろう。スマートフォンそのものの体験を向上させるという点では、Appleが盛り込んだ機能は正しかった。

しかし、ユーザーが気にしているのは、Appleが本来集中すべきというスマートフォンでの体験ではなく、スマートフォンを利用する際に常に頭をちらつくパケット料金の問題だった。今回の訴訟のポイントは、Appleがユーザーの気持ちを読み誤ったことにある。

高速化やつながりやすさは、インフラの普及の問題だ。しかし通信にまつわる、より自由度を制限する問題は、通信量によって規定される料金だ。そしてユーザーが最も気にする部分でもある。

日本も含む世界的な流れとして、データ料金は使った分だけ払う、というスタイルだ。たいていの場合、毎月利用するだけのデータ量を選ぶ料金プランになっている。最近では選んだデータ量を家族で共有するスタイルも一般的になっている。

日本でパケット通信し放題が当たり前だったころの2011年に米国に渡ってきて、iPhone 4Sを契約した際、夫婦2人で毎月140ドルも支払いながら、それぞれたった2GBのデータ通信しかできないことに驚いた。

無制限だった世界から急に制限が設けられ、しかも2GB。相当用心しながら、なるべく使わないよう気をつけた結果、最初の月に使ったデータ量は、500MB程度だったことを覚えている。

そんな経験もあって、Wi-Fiアシストが予期せぬ通信でデータ量を消費することへの不満はとても理解できるのだ。