東芝の企業風土と文化は改革されるか

2012年度上期には、チャレンジ値が89億円の赤字であるのに対して、業績見通しが248億円の赤字となる報告があった。再度開催された社長月例において佐々木氏は、上期末までの残り3日間で120億円の営業利益改善と、その結果を翌日に報告することを強く求めた。そこでは9月末までに、Buy-Sellで39億円、キャリーオーバー(*)で65億円(うちパソコン事業で58億円)の損益対策を行うことなどが報告され、佐々木氏らもこれを認めたという。

(*)損益対策のために行っていた様々な施策。東芝独自の総称。

こうした流れのなかで、佐々木氏が社長を退任した直後の2013年度第1四半期末においては、Buy-Sell利益計上残高は推計で654億円にも達していたという(Buy-Sell取引を用いたODM部品の押し込みによる見かけ上の利益かさ上げ後)。

すでに、パソコン事業の月別損益には、強烈なひずみが生じていた。とくに2012年以降、四半期末の利益は、同月の売り上げを上回るほどとなっていた。月別の損益状況だけから見ても、会計処理の異常さは明白な状態に陥っていたという。

【左】7月21日午後7時からは第三者委員会が会見を行った。【右】第三者委員会の委員長を務めた上田廣一氏

第三者委員会「経営トップらの関与を含めた組織的な関与があり、かつ意図的に当期利益のかさ上げをする目的のもとに、Buy-Sell取引を用いたODM部品の押し込みが行われていた。西田氏、佐々木氏は、カンパニーに対して、収益改善の高いチャレンジを課して、その必達を求めることにより、カンパニーはODM部品の押し込みを実行せざるを得ない状況に追い込まれていたと認められる。

さらに、Buy-Sell取引を用いたODM部品の押し込みにより見かけ上の利益をかさ上げさせている事実を認識しつつ、それについて直ちに解消するよう指示を行わず、許容してきたことが認められる。

チャレンジというプレッシャーは、長期的な利益の確保を視野に入れたものではなく、当期利益至上主義といえる、四半期利益を最大化することを考えているものであった。こうしたことから、ODM部品の押し込みによる見かけ上のかさ上げという不適切な行為が長期間にわたり継続された。

このような行為が、経営トップらの関与の下で実行、継続されてきたことは、経営トップらの関与者において、適切な会計処理を実施すべき意識、コンプライアンスが利益に優先するという意識が希薄であったといわざるを得ない。また、監査委員会による内部統制機能も働いておらず、到底評価することはできない」

7月21日、東芝の会見に続いて午後7時から行われた第三者委員会の会見では、「担当者が会計知識を間違えていたり、先送りすることが違法だと思っていなかったり、半導体の在庫評価のように自分たちに違法の認識がないといったこともあった。個別に見ると不正といえなくないものもある」と、第三者委員会の上田廣一委員長は発言。「社内で『当期利益至上主義』と呼ぶ、最初に掲げた目標を達成しなくてはならないという企業風土があった。日本を代表する企業が、こうした不適切な会計を、組織的にやっていたことに衝撃を受けた」と語った。

7月22日付けで会長兼社長に就任した室町正志氏

日本を代表する企業であり、パソコン事業では日本のメーカーとして最大規模を誇る東芝。企業としての信頼感とともに、同社のブランドを著しく傷つけたのは確かである。

「140年の歴史のなかで、最大のブランドイメージの毀損があったと認識している。これは、一朝一夕では回復できない。一日一日全力で取り組んでいく姿をご理解いただくしかない。時間がかかっても、やり遂げなくてはならない」と田中氏。

東芝の復活への道は厳しいものになるのは明らかだ。どんな形で東芝社内の文化が改革されるのか。まずはそこから新たな姿を見せてほしい。