パソコン事業の不適切な会計処理、マスキング価格とは
東芝はパソコン事業において、台湾のODMでPC本体の生産を行っている。社内で「Buy-Sell取引」と呼ぶ仕組みを採用し、ODMに対して部品の押し込みを行っていた点が、不適切な会計処理の温床となった。
液晶パネル、HDD装置、メモリといったPC用の主要5部品を、東芝グループ(東芝および東芝国際調達台湾社=TTIPなど)で一括して購入し、これをODMに対して販売する。これらの部品の多くは、東芝がもともと自社生産をしていたものであり、部品調達面で優位性が発揮できる領域であったといえる。
このとき、東芝グループの仕入れ値が、ODM側から分からないようにするため、ODMへの売却代金を東芝グループの仕入れ値よりも高くし、一定金額を上乗せした価格で設定。これをマスキング価格と呼び、当初は利益を上乗せするというより、調達価格の情報漏えいを防止する役目を果たしていたという。実はCPUについても、主要5部品のひとつとして東芝が一括で調達してODMに供給していたが、これは調達価格が分かるため、マスキング価格は設定されていなかった。
そうしたなか、部品の実勢価格が下落し、東芝が設定した部品売却価格との差額が拡大するという事態が発生しはじめた。
一方、部品をODMに販売したあと、ODMでPCとして完成した製品は、今度はTTIPが買い取り、東芝や販社を通じて、市場に流通する。ここでは、東芝がODMに販売した部品が完成品に組み込まれて戻ってきているため、部品を販売した際に計上した利益相当額が、不適切な会計処理に当たるとした。
東芝では、将来、TTIPからPCの納品があった時点で、製品価格からマスキング値差分を控除するため、マスキング値差と同額をTTIPに対する未収入金として計上するとともに、製造原価を減額することで利益を計上していた。これも不適切な会計処理に当たる。
調査報告書では、マスキング価格と購入価格との差額であるマスキング値差については、ODM先に対する未収入金および東芝に対する債務と認識しているものの、利益認識をしていないことを指摘。これが不適切な会計処理に当たるとしている。
調査報告書で示された事例では、TTIPが「50」で調達した部品を、「300」でODMに供給していた。ここではマスキング値差となる「250」を、東芝は製造原価から控除して利益計上していたことになる。さらに、完成品取引においては、ODMが「300」で調達した部品を使用してPCを生産。加工賃を「20」、手数料を「10」付加して、引き取ることになるという。
調査報告書では、「商品取引時に、製造原価のマイナス処理を行うことによって、利益を計上しているため、当該会計処理の適切性が問題となる。また、年々マスキング倍率が大幅に増加しており、調達価格の5倍を超える水準でODMと取引されていた。それを踏まえて、その適切性を検討する必要がある」と指摘。「部品取引と完成品取引は、実質的に一連の取引と考える方が合理的であり、これを前提とした会計処理を行うことが、当該取引を適切に表現することになる」とした。
ここでは、ODMが東芝から調達した部品に関して、在庫リスクを負っていないこと、過去に転用不可能な余剰部品を東芝が買い戻したり、処分費用を支払っている実績があること、部品取引価格は東芝の言い値であり、交渉がなされていないことなどを理由に、こうした指摘を行ったと説明している。
マスキング倍率については、2008年には2.0倍だったものが、2009年度には2.2倍、2010年度には3.6倍、2011年度には4.2倍、2012年度には5.2倍、2013年度には5.2倍となっている。また、東芝の子会社である東芝トレーディングを通じて、東芝が調達した部品をODMに供給するルートがあることも判明。ここでは、調達価格の4倍から8倍のマスキング価格で供給されている実態も明らかにされた。
第三者委員会では、「調達価格の5倍以上という異常な倍率に設定されていた時期もあること、ODMへの部品供給量を調整することで、多額の利益計上が可能になっていた」と認定。PCの部品取引に関する会計処理における修正損益影響額は、以下のように算出した。
- 2008年度 マイナス198億円
- 2009年度 マイナス286億円
- 2010年度 プラス105億円
- 2011年度 マイナス166億円
- 2012年度 マイナス296億円
- 2013年度 マイナス1億円
- 2014年度第3四半期累計 プラス247億円